論文の内容の要旨

【目的】

ヘリコバクターピロリ感染は逆流性食道炎の発症に抑制的に作用していると考えら

れており、強皮症に伴う逆流性食道炎においてもヘリコバクターピロリ感染の関与が考えうるか検討を行った。

【方法】

1998年10月から2005年6月の間に受診した強皮症患者のうち64人に内視鏡検査と、抗ヘリコバクターピロリIgG抗体を用いて感染の有無を調べた。食道粘膜傷害の程度は逆流性食道炎のロサンゼルス分類を用いた。

【結果】

64人の患者のうち37人の患者(57.8%)に、ヘリコバクターピロリ感染を認めた。逆流性食道炎は、37人のヘリコバクターピロリ感染者のうちの10人、27人のヘリコバク

ターピロリ陰性者のうちの19人で観察された。ヘリコバクターピロリ感染者では有意に

逆流性食道炎の発症が少なかった(P<0,01)。強皮症患者において、ヘリコバクターピロ

リ感染症の逆流食道炎に対する相対危険率は0.16であった(95%CI;0.05・0.47)。

【考察】

強皮症患者では、約60%の症例で逆流性食道炎が観察されると報告があり、蠕動運動障害が逆流性食道炎の主な理由とされている。今回の検討において強皮症患者の57.8%

にヘリコバグターピロリ感染を認め、有意に逆流性食道炎の発症が少なかった。

【結論】

強皮症患者においてもヘリコバクターピロリ感染が逆流性食道炎の発症に抑制的に作用している事が示唆された。

 

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 宮本 比呂志

副査 野出 孝一

副査 中房 祐司

 

本論文は,強皮症に伴う逆流性食道炎の発症にヘリコバクター・ピロリ感染が影響を与えているかについて述べている.

これによると,64人の強皮症患者に内視鏡検査と抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体を用いて感染の有無を調べたところ、37人(57.4%)にヘリコバクター感染を認めた。37人の感染者のうち10人に逆流性食道炎を認めたが、27人の非感染者では19人に逆流性食道炎を認め、感染者では有意に逆流性食道炎の発症が少なかった(P〈0.01)。強皮症患者においてヘリコバクター・ピロリ感染症の逆流性食道炎に対する相対危険率は0.16(95%CI;0.05-0.47)であった。また、ヘリコバクター感染者の逆流性食道炎はロサンゼルス分類による軽症例(A,B)が重症例(C,D)に比べて多い傾向が見られた。一方、逆流性食道炎とヘルニアの有無、強皮症の病型の違い、強皮症の罹患期間、年齢分布、悪性腫瘍の合併、ステロイド使用、喫煙、飲酒、などには有意な相関はなかった。

以上の成績は,強皮症患者においてヘリコバクター・ピロリ感染が逆流性食道炎の発症に抑制的に働いていることを示唆しており、強皮症と逆流性食道炎の関係について,新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。