論文の内容の要旨

 

【背景】

近年、T2*強調MRI上の微小脳出血(brain microbleeds:MBs)と認知機能との関連が注目されているが、従来の報告は脳血管障害、認知症等の神経疾患を有した群を対象とし検討したものである。

【目的】

T2*強調MRI上のMBsと認知機能との関連を神経疾患のない成人で調べる。

【対象・方法】

対象は神経疾患のない脳ドック受診者518名(男性251名、平均57歳)である。2種の閾値(subnormal群の定義:@MMSE総スコア<27, AMMSE総スコアが各年代の平均より1.5SD以上低値)を用い正常群とsubnormal群に分けた。各々の閾値で2群間の危険因子、MRI上の無症候性病変を比較した。下位解析としてMBs有無別、及びMBs部位別(基底核/視床/皮質・皮質下白質)とMMSE総・下位スコアの関連も検討した。

【結果】

閾値@での単変量解析ではsubnormal(25名(5%)で教育年数が低く、同群でMBs頻度・数、重症白質病変の頻度が多かった。閾値Aを用いた単変量解析(subnormal34名(7%))でも同様の結果であった。閾値@での多変量解析では、MBs有(OR 5.44; 95% CI, 1.83-16.19)、MBs(OR 1.32; 95% CI, 1.04-1.68) subnormal群に関連し、閾値Aでも同様の関連が見られた(MBs有(OR 3.93; 95% CI, 1.44-10.74)、MBs(OR 1.26; 95% CI, 1.01-1.59))MBs有無別の下位解析ではserial 7が低かった(p=0.017)。基底核MBs有群は同無群に比しserial 7が低く(p=0.014)、視床MBs有群は同無群に比し総スコア(p=0.036)、見当識(p=0.012)が低かった。皮質・皮質下白質MBs有無別での2群間比較では各スコアに差はなかった。

【結論】

認知機能低下と関連するsmall vessel diseaseの一つとしてMBsも含めるべきであろう。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 松島 俊夫

副査 工藤 祥

副査 山田 茂人

 

本論文は、脳ドックで検査を受けた神経疾患のない成人におけるT2*強調MRI上の微小脳出血(brain microbleeds:MBs)と認知機能との関連を検討したものである。

対象は神経疾患のない脳ドック受診者518名(平均57歳)である。これらの症例にMini Mental State Examination(MMSE)を行い、2種の閾値((@MMSE総スコア<27,AMMSE総スコアが各年代の平均より1.5SD以上低値)を用いて症例を正常群とsubnorma1群(閾値@かA)に分け、それら2群間での危険因子とMRI上の無症候性病変Bsとの関係を比較検討した。

下位解析として、Bs有無別、及びMBs部位別(基底核/視床/皮質・皮質下白質)とMMSE総・下位スコアの関連も検討した。

結果は、閾値@での単変量解析ではsubnorma1群(25名(5%))で教育年数が低く、同群でMBs頻度・数、重症白質病変の頻度が多かった。閾値Aを用いた単変量解析(subnorma1群34名(7%))でも同様の結果であった。

以上の結果より、MBsが認知機能低下と関連するsmall vessel diseaseの一つであることを証明し、認知障害の成因について新しい知見を加えた。今後、高血圧症患者の治療方針や脳血管性痴呆の病態解明にも大いに役立つものと考える。

よって本論文を博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。