論文の内容の要旨

目 的

MeCP2はメチル化したプロモーターCpGアイランド(CGI)に結合して遺伝子発現を抑制することが知られているが、非メチル化CGIにも結合し発現抑制することが推測されている。MeCP2のメチル化非依存的な遺伝子抑制機構と標的遺伝子の特徴を明らかにすることを目的とした。

 

方 法

癌細胞株LU65においてRNA干渉法によりMeCP2をノックダウン(KD)したのち、遺伝子発現の変化をマイクロアレイにより解析した。発現上昇遺伝子を抽出し、プロモーターCGIの有無、メチル化、MeCP2結合状態を解析した。発現上昇遺伝子のGene Ontology解析を行った。

 

結 果

KDにより発現上昇した遺伝子は49個で、半数はプロモーターCGIを持っていなかった。プロモーターCGIを持つ7遺伝子を選択し解析した。2個がメチル化とMeCP2結合を示し、KDにより結合は低下した。5個は非メチル化であったが、そのうち3個にMeCP2の結合が認められ、うち1個ではKDにより結合が低下した。残り2個についてはMeCP2の結合を認めなかった。また、メチル化はKD前後で変化しなかった。Ontology解析ではextracellular componentに関わる遺伝子が有意に多かった。

 

考 察

MeCP2は、メチル化そのものには影響を与えず、非メチル化CGIにも結合し発現を抑制すると考えられた。また、特定の機能を持つ遺伝子を標的とすることが考えられた。

 

結 論

MeCP2は、メチル化非依存的に遺伝子発現を抑制する。また、特定の機能を持つ遺伝子を制御することが示唆された。

論文審査の結果の要旨

主査 吉田 裕樹

副査 出原 賢治

副査 池田 義孝

 

MeCP2はメチル化したプロモーターCpGアイランドに結合して遺伝子発現を抑制する。メチル化非依存的遺伝子抑制機構と標的遺伝子の特徴を明らかにするために、ヒト癌細胞株LU65においてRNA干渉法によりMeCP2を

ノックダウンし、遺伝子発現の変化をマイクロアレイ法により解析、発現上昇遺伝子を抽出した。

49個の遺伝子発現上昇を認めたが、これらのうち半数はプロモーターCpGアイランドを有していなかった。プロモーターCpGアイランドを持つ7遺伝子の中でも2個はメチル化とMeCP2結合が認められたが、5個は非メチル化であり、そのうち3個にMeCP2結合が認められた。Ontology解析により、ノックダウンで発現が上昇した遺伝子群では、extracellular componentに関わる遺伝子が有意に多く含まれていた。

以上のデータは、これまでメチル化プロモーターCpGアイランドに結合すると考えられていたMeCP2が非メチル化プロモーターCpGアイランドにも結合することを示し、かつMeCP2が特定の機能を持つ遺伝子群を標的とする可能性を示した物であり、意義あるものと考えられる。

よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。