論文の内容の要旨

 

目的:

胃静脈瘤出血は食道静脈瘤出血より頻度は低いが、より深刻であり、治療法の選択についてはいまだに見解の一致を得ない。この研究の目的は、硬化剤としてヒストアクリル(シアノアクリレート系組織接着剤)を用いた内視鏡的硬化療法(EIS)と内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)の併用が、出血性胃静脈瘤の止血に有効であるか否かの検討である。

 

方法:

27人の出血性胃静脈瘤の患者にEVLとヒストアクリルを用いたEISの併用療法を行った。

27人中11人は活動性の出血を認め、16人は出血後24時間以内で胃静脈瘤表面に白色または赤色のプラークを伴っていた。EISの前に、出血点のみ結紮し、次いで静脈瘤が鬱血するまでヒストアクリルを注入した。

この併用療法の後、最低5年は経過観察され、必要に応じて再治療された。

 

結果:

初回治療の後1週間の止血率は88.9(24/27)だった。このうち33.3(8/24)は初回治療の後553ヶ月の間に再出血が認められた。最終的な止血率は81.5(22/27)で、治療後の5年生存率は63.0(17/27)であった。

 

考察:

ヒストアクリルは親水性ポリマーで、水分(血液)に接すると速やかに凝固する。この性質のため、血流の速い胃静脈瘤出血の緊急止血に適している。今回の併用療法の長所は、EVLで緊急止血しバイタルサインを安定させ止血操作のための視野を得て、ついでヒストアクリルを用いたEISで永久的止血を行うことである。

 

結論:

胃静脈瘤出血に対するEVLとヒストアクリルを用いたEISの併用療法は初期止血を可能とし永久止血を得ることができる有効な初回治療の選択枝のひとつである。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 戸田修二

副査 中房祐司

副査 小泉俊三

 

本論文は、肝硬変を有する27名の出血性胃静脈瘤の患者に、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)とヒストアクリル硬化剤を用いた内視鏡的硬化療法(EIS)の併用が出血性胃静脈瘤の止血に有効か否かを検討した研究である。本研究では、出血性胃静脈瘤に対して、先ずEVLを施行して緊急止血を行った後、EISで静脈瘤の硬化療法を施行している。併用療法後、最低5年間の経過観察が施行されている。それによると、初回治療後1週間の止血率は、88.9%(24/27)であり、このうち33.3%(8/24)は初回治療後5-53カ月の間に再出血が見られた。最終的な止血率は、81.5%(22/27)で、治療後の5年生存率は、63.0%(17/27)であった。

以上の知見は、胃静脈瘤出血に対して、EVLに引き続き、ヒストアクリル硬化剤を用いたEISによる併用療法が、初期止血を可能とし、さらに、永久止血にも有効であることを示すものである。即ち、胃静脈瘤出血に対する治療法として、新しい併用療法を提唱したものであり,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。