論文の内容の要旨
目的)
大動脈解離手術において、人工心肺確立のための適正な送血部位の選択は未だ議論がある。大腿動脈送血を用いた急性A型解離手術の術中還流障害の発生頻度と我々の術中対策を調査し、大腿動脈送血の安全性を評価した。
方法と材料)
2002年5月から2007年2月までに行った107例の大腿動脈送血を用いた大動脈解離手術を対象として、経食道超音波検査と両側橈骨動脈圧を用いて術中に発生した還流障害の頻度を調査した。16人に術前の還流異常を認めた。
結果)
術中に還流異常を認めた症例は3例で、すべて体外循環開始直後に発症した。2例は橈骨動脈圧の低下を、1例は超音波検査で真腔の閉塞を認めた。診断後すぐに体外循環を停止し、送血部位を心尖に変更後に再度体外循環を確立した。3例ともに術後経過は良好であった。全体で病院死亡を1例、脳梗塞を7例に認めた。また、大腿動脈送血に伴う血管合併症を1例、創感染を3例に認めた。
考察)
大腿動脈、腋窩動脈、心尖(経左心室)、上行大動脈などが送血に用いられるが、無作為試験は困難でありその選択は術者の経験による。また、術中還流障害の発生はどの部位でも報告があるものの、診断と管理についての報告は少なく、致死的な合併症である。
結論)
急性A型解離手術において、術中還流障害の発生率は許容範囲(全体の2.8%、偽腔開存型の4.1%)である。体外循環開始時に経食道超音波検査と両側橈骨動脈圧を管理することにより対応可能である。
論文審査の結果の要旨
主査 野出孝一
副査 中島幹夫
副査 井上晃男
本論文は,大腿動脈送血を用いた急性A乖解離手術の術中還流障害の発生頻度と術中対策を調査することにより、大腿動脈送血の安全性評価について述べている。
これによると,107例の大腿動脈送血を用いた大動脈解離手術を対象として、経食道超音波検査と両側橈骨動脈圧を用いて術中に発生した還流障害の頻度を調査し、うち、3例に術中還流異常を認め、体外循環開始直後に発症した。2例は橈骨動脈圧の低下を、1例は超音波検査で真腔の閉塞を認めた。診断後すぐに体外循環を停止し、送血部位を心尖に変更後に体外循環を開始し術後経過は良好であった。大腿動脈、腋窩動脈、心尖(経左心室)、上行大動脈が送血に用いられるが、無作為試験は困難であり、その選択は術者の経験による。また、術中還流障害の発生はどの部位でも報告があるものの、診断と管理についての報告は少なく、致死的な合併症である。急性A型解離手術において、術中還流障害の発生率は許容範囲(全体の2.8%、偽腔開存型の4.1%)であった。
以上の成績は、体外循環開始時の超音波検査と両側橈骨動脈圧を管理することにより大腿動脈送血の安全性を確保できることを明らかにした点で、臨床的に意義あるものと考えられる。
よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。