論文の内容の要旨

 

目的:

肺がん患者の予後を改善のためには早期診断が重要な課題である。私共はこれまでRNA結合タンパク質であるhnRNP B1が肺がん組織に早期より発現していること、また肺がん患者の血漿中のhnRNP B1 mRNAをリアルタイムRT-PCR法にて同定可能であることを報告してきた。今回、肺がんのスクリーニングを目的として、血漿hnRNP B1 mRNAの迅速かつ簡易な検出法について検討した。

 

方法:

血漿hnRNP B1 mRNAの測定はTRC法を用いた。TRC法とは逆転写反応と転写反応を一定温度で行いRNAを増幅する迅速法である。増幅されたRNAは、蛍光ラベルしたプローブと反応させ、その蛍光強度を測定することによりRNAを定量することができる。

 

結果・考察:

TRC法を用いてのhnRNP B1 mRNAの検出限界は合成コントロールRNAでは25コピー、肺がん細胞株より抽出したRNAでは8.65 ×102コピーだった。血漿RNAを用いた解析では、健常人97例中5例(5.2%)で検出されたのに対して肺がん患者においては23例中9例(39%)で検出され、そのコピー数はRNA100ng1.9190455コピーであった。コピー数は年齢、性別、喫煙、組織型との関連は認められなかった。TRC法は10分間で103コピーのhnRNP B1 mRNAを検出することができた。さらに感度、特異度を高める方法について検討を行っている。

 

論文審査の結果の要旨

主査 副島英伸

副査 長澤浩平

副査 吉田裕樹

 

本論文は,血漿中のRNA結合タンパクhnRNP B1 mRNAを迅速かつ簡易に測定するtranscription-reverse transcription concerted reaction法(TRC法)を確立し、肺癌のバイオマーカーとしての有用性について述べている。               

これによると,TRC法によるhnRNP B1 mRNAの検出限界は、合成コントロールRNAで25コピー、肺癌細胞由来RNAで8.65x102コピーであった。   

血漿中hnRNP B1 mRNAは,健常人97例中5例(5.2%)で検出されたのに対して、肺癌患者では23例中9例(39%)で検出された。肺癌患者で検出されたコピー数は1.9〜190455コピーであったが、年齢、性別、喫煙、組織型との関連はなかった。                 

以上の成績は,血漿中のhnRNP B1検出方法と肺癌のスクリーニングに新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。          

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。