論文の内容の要旨

【目的】

IL-4IL-13は、気管支喘息の病態形成に重要である。本疾患に関与する遺伝子の探索を目的とし、気管支上皮細胞をIL-4IL-13刺激することで顕著な誘導を示した遺伝子について、喘息患者生体試料を用いた種々の解析を行った。

 

【方法】

気管支上皮細胞をIL-4IL-13の有無で培養し、DNAマイクロアレイ及び定量的PCRを用いて誘導される遺伝子を同定した。同定された一部の遺伝子について、喘息患者の気管支組織細胞或いは血清を用いてmRNA或いはタンパク質を測定した。

 

【結果】

マイクロアレイ法により、IL-4IL-13共に誘導を示した12遺伝子を同定した。その中で、squamous cell carcinoma antigenSCCA)遺伝子が最も顕著な誘導を示した。SCCAタンパク質について、気管支上皮細胞でのIL-4或いはIL-13 による産生誘導をELISA或いは免疫染色にて観察した。また、喘息患者気管支組織由来cDNAライブラリーでSCCA遺伝子の有意な発現を確認した。さらに、喘息患者血清中のSCCA量は、非喘息患者血清と比較して有意に高値であった。

 

【考察】

SCCA遺伝子は、気管支喘息の診断マーカーに成り得ることが考えられた。

【結論】

本論文に報告したin vitroin vivoでの遺伝子学的解析は、気管支喘息の新規疾患関連遺伝子を見出す手法に成り得ることが示された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 長澤 浩平

副査 吉田 裕樹

副査 林 真一郎

 

本論文は、気管支喘息関連のサイトカインであるIL-4及びIL-13によって誘導される遺伝子を探索し、特にその過程で見いだされたSCCA1及びSCCA2について解析している。

DNAマイクロアレイ、及び定量的PCRを用いて、IL-4,IL-13によって気管支上皮細胞に誘導される遺伝子を同定したところ、12の遺伝子が有意に誘導されたが、中でもSCCA1及びSCCA2遺伝子誘導が最も顕著であった。

また、喘息患者気管支組織由来のcDNAラブラリーの検索でもSCCA(特にSCCA1)遺伝子の有意な発現認めた。さらに、SCCAがIL-4,IL-13によって誘導される際には、STAT6及びそれ以外の転写因子の関与も示唆された。

遺伝子レベルだけでなく、SCCAの蛋白レベルにおいても、気管支上皮細胞において、IL-4,IL-13によって産生が誘導されることが確認された。

また、実際の気管支喘息患者血清中のSCCA濃度は健常者血清と比較して有意に高値であり、病気の活動性とも並行することを認めた。

以上の成績は、気管支上皮細胞にIL-4,IL-13といったサイトカインによって新たな遺伝子の発現誘導を証明し、気管支喘息の病態理解に新しい知見を加えたものであり、意義あるものと考えられる。

よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。