論文の内容の要旨

 

【目的】

cytochrome P450(CYP)は、一般的に薬物代謝酵素として知られているが、一方でアラキドン酸の代謝に関与しているアイソフォームがある。CYP2J2は、主にヒト血管内皮細胞で発現しており、アラキドン酸を代謝して血管拡張作用や抗動脈硬化作用を示すエポキシエイコサトリエン酸を産生することが報告されている。我々は動脈硬化の進展に重要な役割を持つヒト単球においてCYP2J2を同定し、単球を刺激してマクロファージに分化誘導した場合のCYP2J2の発現変化を検討した。

 

【方法】

ヒト単球系細胞株THP-1細胞およびヒト末梢血から分離した単核球画分(PBMC)よりRNAを抽出し、RT-PCR法でCYP2J2の発現を調べた。また、PBMCCYP2J2タンパク質をイムノブロッティング法で検出した。さらに、THP-1細胞をPMAで、またPBMC M-CSFGM-CSFでそれぞれ7日間刺激してマクロファージ様の細胞に分化誘導しCYP2J2 mRNAの発現の変化をリアルタイムPCR法で測定した。さらに、これらマクロファージのCYP2J2タンパク質を免疫染色法により検出した。

 

【結果】

THP-1細胞とPBMCはいずれも完全長のCYP2J2mRNAを発現していた。また、イムノブロッティングによってPBMCCYP2J2タンパク質が同定された。THP-1細胞およびPBMCを刺激してマクロファージに分化誘導するとCYP2J2の発現は経時的に上昇した。マクロファージにおけるCYP2J2の分布を免疫染色により調べたところ、CYP2J2タンパク質は細胞質に広く分布していた。

 

【考察】

CYP2J2は単球に発現しており、マクロファージ様に形態変化させる刺激により、その発現は上昇することが明らかになった。

 

【結論】

単球はCYP2J2を発現しており、マクロファージに分化するとCYP2J2の発現は上昇する。以上のことから、単球はCYPエポキシゲナーゼを介したアラキドン酸代謝経路を持ち、エポキシエイコサトリエン酸を産生する可能性がある。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 出原賢治

副査 末岡榮三朗

副査 副島英伸

 

本論文は,cytochrome  P450のアイソフォームの一つであり,アラキドン酸代謝酵素であるCYP2J2のヒト単球における同定と発現変化ついて述べている。

これによると,ヒト単球細胞株THP-1細胞およびヒト末梢血単核球においてCYP2J2のmRNAレベルおよびタンパク質レベルでの発現を確認した。THP-1細胞をPMAで刺激した際に、およびヒト末梢血単核球をM-CSFあるいはGM-CSFで刺激した際に、CYP2J2の発現が増加することを確認した。

以上の成績は,単球はCYP2J2を発現しており、アラキドン酸代謝経路を持っていることを示しており,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。