論文の内容の要旨

 

【研究の目的】

気道粘液の過剰産生は気管支喘息とCOPDの主症状であり、これらの疾患の病態と死亡率に関与する。Th2サイトカインであるIL-13は、粘液過剰産生を含めた喘息の病態生理における中心的なメディエーターである。我々はIL-13に反応する気道上皮細胞の遺伝子の網羅的な解析から、SLC26A4PDS)遺伝子としてコードされる陰イオン輸送体pendrinを気道粘液産生の原因分子と同定し解析を行った。

 

【方法】

喘息、またはCOPDモデルマウスで気道上皮でのpendrinの発現を確認した。in vitroin vivoでの気道上皮細胞へのpendrin強制発現系にて粘液産生への関与を確認した。

 

【結果】

喘息、COPDモデルマウスのどちらも、粘液過剰産生と関連してpendrinが気道上皮細胞の管腔側に高発現していた。Pendrinは喘息とCOPDの気道上皮における粘液の主成分であるMUC5ACの発現を誘導した。センダイウイルスベクターを用いたマウス気道上皮細胞へのpendrinの強制発現により、好中球浸潤を伴う肺胞腔への粘液過剰産生が誘導された。

 

【考察】

Pendrinは喘息やCOPDにおいてIL-13刺激により気道上皮細胞で発現し、粘液産生を誘導する分子であることが示唆された。

 

【結論】

Pendrinは気道上皮細胞において粘液産生を誘導する分子であり、気管支喘息とCOPDの治療のターゲットとなり得る。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 吉田裕樹

副査 濱崎雄平

副査 林真一郎

 

本論文は,喘息や慢性閉塞性肺疾患において、IL-13により誘導されるpendrin遺伝子の役割について述べている。

これによると,人の気道上皮培養細胞がIL-13存在下で粘液産生細胞に分化するときに誘導される遺伝子のひとつとしてpendrinが同定された。

ヒトやマウスの気道上皮細胞において、IL-13や関連するサイトカインであるIL-4刺激によりpendrinの発現誘導が確認された。Pendrinの発現上昇は、喘息のモデルマウスにおける気道上皮や、慢性閉塞性肺疾患のモデルマウスにおける気道上皮においても確認された。Pendrinはイオントランスポーターとして機能することが知られているが、pendrinを強制発現させた細胞ではヨードなどのイオンの取り込みが高まっており、イオントランスポーター阻害剤ニフルミン酸によりイオンの取り込みが抑制されるとともに、粘液成分(MUC5AC)の産生も低下したことから、発現が亢進したpendrinのイオントランスポーターとしての作用により、上記疾患における粘液産生が高まってることが推測された。さらにウイルスベクターによりpendrinを気道上皮に発現させたところ、喘息などに類似した気道変化とともに、好中球の浸潤が認められ、同時に好中球走化性因子の発現亢進も認められた。

以上の成績は,喘息や慢性閉塞性肺疾患においてIL-13、およびこれにより誘導される遺伝子のひとつpendrinの病態形成における役割を明確に示したものであり、意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。