論文の内容の要旨

 

【研究の目的】

ステロイド依存性の重症筋無力症(MG)の患者に対するタクロリムス投与の長期的な治療効果を検討した.

【方法】

プレドニゾロン(PSL)内服中に同剤を減量することでMG症状が増悪する全身型MGの10症例にタクロリムス3mg/日を投与した.

【結果】

7症例が重篤な副作用なくタクロリムス内服を継続でき,その期間は平均3.1(1.0-5.1年)であった.タクロリムス投与により,5症例が無症状ないし軽微な症状のみに改善し,そのうち4症例がPSL内服を中止できた.他の2症例ではタクロリムス開始後にPSLを減量した際に症状の増悪をきたした.また,推奨されているタクロリムス血中濃度より低い値で推移した2症例でも,症状改善を長期的に維持した.

【考察】

MG症例に対するタクロリムス投与の利点は,治療効果が速やかにあらわれ,ステロイド内服を早期から減量できることにある.ステロイド減量により症状が増悪しだ2症例は胸腺腫の既往を有した.胸腺腫既往例でタクロリムスの効果がより高いとする報告があるが,今回の研究では相反する結果となった.胸腺腫既往例であってもタクロリムス併用下にステロイドを減量する際には慎重におこなうべきである.

【結論】

ステロイド依存性の難治性MG患者に対しタクロリムスを投与することにより,長期にわたりMG症状の改善がえられ,PSLを減量・中止することができる.

 

論文審査の結果の要旨

 

主査  藤戸 博 

副査 松島 俊夫

副査 久富 昭孝

 

本論文は,ステロイド依存性の重症筋無力症(MG)の患者に対するタクロリムス投与の長期的な治療効果について述べている。

プレドニゾロン(PSL)の減量により増悪する全身型MGの10症例にタクロリムス3mg/目を投与し、うち7症例が重篤な副作用なしに継続投与(平均3.1年間〉することができた。その結果、5症例が無症状〜軽微な症状に改善し,そのうち4症例でPSL内服を中止できた。PSL減量により症状が増悪したものが2症例あったが、いずれも胸腺腫の既往があった。また,タクロリムスの血中濃度が、推奨されていう値(5〜10ng/mL)より低い値で推移した2症例においても,症状改善を長期に維持でき、トラフ値が10ng/mL以上であった2症例ではタクロリムスを中止できた。MG症例へのタクロリムス投与は、速やかに効果が発現するためPSL内服を早期から減量でき、ステロイドの副作用の発現を予防することができた。      

以上の成績は,ステロイド依存性MG患者にタクロリムスを投与することにより,症状の改善が長期間得られ,PSLの減量や中止をすることができることを明らかにし,MGの薬物療法に関して,新しい貴重な知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。

よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。