論文の内容の要旨

 

(目的)

Hsp90阻害剤はHsp90と結合しクライアント蛋白質の分解を促進することで細胞増殖抑制効果を示し、種々のがん治療への応用が試みられている。

Hsp90の肺がんにおける発現状態およびHsp90阻害剤の肺がん細胞に対する細胞増殖抑制機構を検討した。

(方法)

肺癌組織におけるHsp90発現状態を免疫組織染色にて確認した。また、Hsp90阻害剤(Geldanamaycin17-AAG)の肺がん細胞における細胞増殖抑制効果およびその機構を解析した。

(結果)

Hsp90は肺がん組織において周囲正常組織と比較し59.4%の症例で発現亢進を認めた。Hsp90阻害剤は3種の肺がん細胞株で細胞増殖抑制効果を示した。細胞増殖抑制機構解析で17-AAGA549 H226Bに対しG2/M停止を起こし、アポトーシスを誘導した。放射線照射との併用では、G2/M停止、アポトーシスにおいて相加的増強効果を認め、G2/M関連蛋白質であるCdc25CCdc2の減少を認めた。Cdc25CLLL投与により発現状態の回復を認め、さらに免疫沈降にてHsp90Cdc25Cの共沈を認めたことからCdc25CHsp90のクライアント蛋白質であることが示唆された。

(結論)

Hsp90阻害剤は、肺がん細胞においてはG2/M停止を介し細胞増殖抑制作用を示す新しい分子標的薬として有用である可能性が示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 副島英伸

副査 長澤浩平

副査 吉田裕樹

 

本論文は、肺癌における分子シャペロンHsp90の発現状態とHsp90阻害剤の癌細胞増殖抑制機構について述べている。

 

これによると、Hsp90は肺癌細胞株で高発現しており、さらに肺癌症例の約60%出発現が亢進していた。Hsp90阻害剤(AG,17-AAG)は、Cdc25CとCdc2のタンパク量を減少させ細胞をG2/Mで停止させた。さらに、アポトーシスも誘導し、結果的に肺癌細胞の増殖を抑制した。放射線照射を加えると癌細胞増殖抑制の相加的増強を認めた。また、Hsp90阻害剤添加によりCdc25Cがプロテアソームにより分解されること、またHsp90がCdc25Cと結合することから、Hsp90阻害剤はCdc25CをHsp90から遊離させることによりプロテアソームによる分解を誘導し、細胞周期をG2/Mで停止させることが示唆された。

 

以上の成績は、Hsp90阻害剤が肺癌の新しい分子標的薬としての可能性を示した論文であり、意義あるものと考えられる。

よって、本論文は博士(医学)学位論文として価値あるものと認めた。