論文の内容の要旨

 

[目 的]

近年慢性腎臓病(CKD)が冠動脈疾患(CAD)発症のリスクとなることが知られているが、CAD患者の予後予測因子としてのCKDの意義は明らかではない。本研究では推定糸球体濾過率(eGFR)CAD患者における臨床的意義を明らかにした。

[方 法]

冠動脈造影を行った慢性冠動脈疾患症例702例においてeGFR値を算出した。

[結 果]

702例中CKD(eGFR<60 mL/min/m2)371(53%)に認められた。eGFR値は冠動脈病変のない群に比べ多枝病群で低値であった(62±17 vs 56±20, ml/min/1.73m2, P<0.01)。単変量解析では糖尿病(RR; 1.754, 95%CI; 1.204-2.555, P=0.003)CKD(RR; 3.24, 95%CI; 1.82-5.76, P=0.0001)、スタチン非投与(RR; 1.468, 95%CI; 1.011-2.119, P=0.044) 3年間の心血管二次イベント発症予測因子であったが、多変量解析ではCKD(RR; 1.721, 95%CI; 1.163-2.548, P=0.007)と糖尿病(RR; 1.828, 95%CI; 1.250-2.674, P=0.002)が独立した予測因子であった。

[結 論]

eGFR値は冠動脈疾患の病変重症度のみならず、その予後をも規定した。冠動脈疾患患者の長期予後改善のためにはCKDをも標的とした管理が必要であると考えられる。

論文審査の結果の要旨

 

主査 森田茂樹

副査 中島幹夫

副査 小泉俊三

 

本論文は冠動脈疾患を有する症例において心血管二次イベントの発症に慢性腎臓病がどのように関与しているかを明らかにしょうとした研究である。             

冠動脈造影を行った慢性冠動脈病変疾患症例702人を対象として血清クレアチニン値と年齢、性別より計算される推定糸球体ろ過率(eGFR)を測定し60m1/min/1.75m2以下のものを慢性腎臓病と定義した。慢性腎臓病症例は全体の53%を占めこれらの症例では36か月後の心血管二次イベント発生率が有意に高いことが示された。一方、心血管二次イベントの発症に関する予測因子を解析すると単変量解析では慢性腎臓病(RR;3.24)、糖尿病(RR;1.754)、スタチン非投与(1.468)が発症予測因子であった。多変量解析でぱ慢性腎臓病(RR;1.721)と糖尿病(RR;L82)が心血管二次イベントの予測因子として残った。         

冠動脈疾患と慢性腎臓病の相互連関を検討した論文は数多く存在するが、冠動脈疾患症例を母集団としそのなかで慢性腎臓病が心血管二次イベントの発症にいかに強く関与しているかを検討した臨床研究はほとんど存在しない。また本論文では観察開始時の投薬(スタチン製剤やレニン・アンギオテンシン系に作用する薬剤)がその後の心血管二次イベントの発症に影響することが示され、今後このような症例への薬剤介入の有用性も適切に討論、示唆されている。           

よって本論文は、博士 (医学)の学位論文として価値あるものと認めた。