論文の内容の要旨

 

【目的】

癌は発生・進展に伴って血管新生を伴う。我が国に多く、且つ佐賀県において発生および死亡率が高い肝細胞癌の新生血管について、組織マイクロアレイ上で血管内皮細胞マーカーの免疫染色を用いて病理組織学的に検討する。

【方法】 

佐賀大学医学部病院病理部でパラフィンブロックに保存されている38症例の肝細胞癌切除例及び周辺非癌部肝組織から組織マイクロアレイヤーを用いて組織アレイを作成し、免疫組織化学および蛍光免疫染色法を用いて行った。血管内皮マーカーとしてCD31CD105vWF, VEGF用い、癌の大きさ、組織型、肝内転移、血管浸潤、微小血管密度 (microvessel densityMVD) との関係を検討した。

【結果】 

非癌部の肝小葉では血管は静脈洞として存在し、その内腔面を覆う内皮細胞は一般的に用いられている内皮細胞マーカーの発現は弱いか殆どないが、癌では発現が見られてくる。CD31陽性の血管内皮細胞からなる癌部の微小血管密度(MVD-CD31)は非癌部肝組織と比較して、肝細胞癌組織に有意に高い。PCNA高発現の肝細胞癌はPCNA低発現の肝細胞癌より、MVD-CD31が有意に高い値を示していた。肝内転移を伴う肝細胞癌組織にCD105及びVEGFは肝内転移を伴わない肝細胞癌より有意に強く発現し、多変量解析ではCD105-MVDは肝内転移の独立予後因子であった。

【結論】

MVD-CD105は肝細胞癌の肝内転移と相関する。CD105は新生血管の幼若な内皮細胞に発現するので新生血管は肝細胞癌の肝内転移に重要な役割を持っていると考えられる。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 戸田修二

副査 岩切龍一

副査 尾崎岩太

 

本論文は、38症例の肝細胞癌切除例の癌組織と周辺非癌部組織から組織アレイを作成し、血管内皮細胞マーカー(CD31,CD105,vWF,VEGF)、増殖マーカー(PCNA)の発現を免疫組織化学で検討し、肝細胞癌の臨床病理学的事項(癌の大きさ、組織型、肝内転移、血管侵襲、微少血管密度)との相関を解析している。  

本研究では、非癌部の血管内皮細胞には、上記内皮細胞マーカ一の発現は低下しているが、癌部ではその発現が亢進していた。     

CD31陽性内皮細胞性の微小血管密度(MDV-CD31)は、癌部では非癌部に比較して優位に増加していた。さらに、PCNA高発現癌では、PCNA低発現癌に比較して、MDV-CD31が優位に増加していた。肝内転移を有する癌では、肝内転移のない癌に比較して、CD105,VEGFの発現が優位に増加しており、多変量解析では、MVD-CD105は肝内転移の独立予後因子であることが判明した。  

以上の研究は、肝細胞癌の肝内転移とCD105発現血管内皮細胞からなる微小血管密度が相関することを示し、肝内転移の独立予後因子であることを初めて解明したものであり,意義あるものと考えられる。よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。