論文の内容の要旨

 

目的)

心拍動下冠動脈バイパス術中、僧帽弁閉鎖不全(以下MR)が増悪し循環動態が不安定となる症例を経験する。心臓脱転による僧帽弁形態への影響が考えられるが、視野展開による僧帽弁形態を解析した報告はない。そこで心臓脱転および心筋虚血による僧帽弁形態を内視鏡およびSonomicrometer3次元的解析することを目的とした。

方法)

成犬7匹を用いて人工心肺確立後、Sonomicrometerを僧帽弁輪に6点、心表面に2点縫着した。Krebs-Henseleit液を上行大動脈より灌流し心拍再開した後、Heart positionerで心臓脱転し僧帽弁輪径,前後径、交連間径をSonomicrometryで解析し,同時に左房より心臓内視鏡で僧帽弁の形態を観察した。さらにLCXLADをそれぞれ遮断、15分後に遮断解除しその間の僧帽弁形態を観察した。

結果)

心臓脱転時には交連間径、前後径、僧帽弁輪は拡大なく、MRは生じなかった。LCX遮断例では後交連を中心に僧帽弁輪径(p=0.008)、前後径が拡大し(p=0.02),後交連側にMRを内視鏡で確認し,遮断解除後は回復傾向を認めた。LAD遮断例ではほとんど変化なくMRは生じなかった。

結論)

心筋虚血が無い場合,心臓脱転のみではMRは発生しなかった。LAD領域の虚血でMRは生じず、LCX領域の虚血で後交連側を中心に僧帽弁輪径は拡大し、MRを生じた。

 

論文審査の結果の要旨

主査 野出 孝一

副査 頴原 嗣尚

副査 井上 晃男

 

本論文は,心臓脱転および心筋虚血による僧帽弁形態の内視鏡およびSonomicrometerによる3次元解析について述べている。

これによると,成犬7匹を用いて人工心肺確立後Sonomicrometerを僧帽弁輪に6点、心表面に2点逢着し、Hrebs-Henseleit液を上行田移動脈より灌流し心拍再開後にHeartpositionerで心臓脱転し僧帽弁輪径、前後径、交連間径をSonomicrometryで解析し、同時に左房より心臓内視鏡で僧帽弁の形態を観察している。さらにLCX、LADをそれぞれ遮断、15分後に遮断解除しその間の僧帽弁形態も観察している。心臓脱転時には、交連間径、前後径、僧帽弁輪は拡大なく、僧帽弁閉鎖不全(MR)は生じなかった。LCX遮断例では、後交連を中心に僧帽弁輪径(p=0.008)、前後径が拡大し(p=0.02)、後交連側にMRを内視鏡で確認し、遮断解除後は回復傾向を認めている。L曲遮断例ではほとんど変化なくMRは生じなかった。

以上の成績は,心筋虚血が無い場合、心臓脱転のみではMRは発生しないこと、LAD領域の虚血でMRは生じず、LCX領域の虚血で後交連側を中心に僧帽弁径は拡大しMRを生じるという、今までに報告のない、心臓脱点による僧帽弁形態への影響について視野展開による解析をした点で,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。