論文の内容の要旨

 

背景

気道上皮からのeotaxin産生が報告されているが、3つのクラスのeotaxinの発現が、どのように制御されているかについては知られていない。

目的

培養気道上皮細胞において、eotaxins、特にeotaxin-1およびeotaxin-3の発現がどのような機序で制御されているかについて検討した。

方法

ヒト気道上皮細胞(BEAS-2B)および正常ヒト気道上皮細胞(NHBE)におけるeotaxin-1eotaxin-2eotaxin-3mRNA発現でRT-PCR法、蛋白産生をELISA法にて検討した。細胞膜上の受容体の発現は、フローサイトメトリー法で検討した。Eotaxin-3遺伝子発現にかかわる細胞内シグナル伝達系について、各種阻害薬を用い検討した。特にSTAT6リン酸化の検討は、ウエスタンブロット法にて行った。

結果

気道上皮細胞をIL-13もしくはIL-4で刺激するとeotaxin-1eotaxin-3mRNA発現が誘導されたが、蛋白産生はeotaxin-3のみに認められた。eotaxin-2mRNA発現および蛋白産生は認められなかった。IL-4は、IL-13よりもeotaxin-3産生を強く誘導した。これは、気道上皮細胞にはタイプ1・タイプ2両方のIL-4受容体が発現しているためと考えられた。事実、IL-4IL-13よりIL-4受容体のシグナル分子であるSTAT6を有意に強くリン酸化した。

eotaxin-1mRNA発現にはTNF-aIL-4の両者を必要とした。TNF-aIL-4で誘導されるeotaxin-1mRNA発現はNF-kB阻害薬(MG132)により有意に抑制された。一方、IL-4で誘導されるeotaxin-3mRNA発現は有意に増強された。MAPKを始めとする細胞内シグナル伝達にかかわる分子の阻害薬は、IL-4で誘導されるeotaxin-3mRAN発現に対する明らかな作用を認めなかった。IL-13で誘導されるeotaxin-3mRNA発現でも同様の結果を認めた。

蛋白合成阻害薬(CHX)は、IL-4刺激で誘導されるeotaxin-3mRNA発現を有意に阻害した。

コルチコステロイド(FP)は、IL-4およびIL-13により誘導されるeotaxin-3mRNA発現および蛋白産生を有意に抑制した。

結論

気道上皮細胞において、Th2サイトカインにより誘導されるeotaxinは主にeotaxin-3である。気道上皮細胞はタイプ12いずれのIL-4受容体も発現するため、IL-4IL-13よりeotaxin-3をより強く発現すると考えられる。

気道上皮細胞においてeotaxin-1およびeotaxin-3産生は異なる制御を受けているが、これは一部、NF-kBの各遺伝子に対する異なる作用に起因すると推測される。

気管支喘息治療における吸入ステロイドは、その効果の一部に気道上皮細胞からのeotaxin-3産生抑制が関与していると考えられる。

論文審査の結果の要旨

主査 出原 賢治

副査 吉田 裕樹

副査 林 真一郎

 

本論文は、気道上皮細胞におけるエオタキシン3とエオタキシン1の産生ならびにその調節機構について解析を行っている。

これによると、培養ならびに正常ヒト気道上皮細胞をIL-13およびIL-4で刺激すると、エオタキシン3ならびに1の遺伝子発現とエオタキシン3のタンパク質産生を認めた。ステロイド剤はIL-13およびIL-4によるエオタキシン3の遺伝子発現・タンパク質産生を濃度依存性に抑制した。

TNF-αによる前処置はIL-4によるエオタキシン1の産生を誘導し、NF-kBの阻害剤はエオタキシン1の産生を阻害した。

以上の結果より、気道上皮細胞に対するIL-13およびIL-4刺激は、エオタキシン3の遺伝子発現・タンパク質産生に充分である一方、エオタキシン1の誘導にはNF-kBの関与も必要であることが明らかとなった。以上の成績は、エオタキシン3とエオタキシン1の誘導機序において差異が存在することを示しており、意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。