論文の内容の要旨

 

【目的】

放射線被曝線維芽細胞の扁平上皮癌細胞の増殖・浸潤に及ぼす影響(Radiation-induced bystander effects)とその機序の解明

 

【方法】

線維芽細胞株(NIH3T3,WI-26VA4)、扁平上皮癌細胞株(T3M-1,HEp-2)を用いた。12Gy放射線を照射した線維芽細胞をコラーゲン・ゲル内に包埋した後、そのゲル上に癌細胞を播種し、癌細胞のゲル内浸潤を解析した。増殖・アポトーシス・浸潤関連分子及び遺伝子不安定性を免疫組織化学、蛍光免疫組織化学、ウエスタンブロットで解析した。

 

【結果】

放射線被曝線維芽細胞数は非被曝線維芽細胞数の約30%までに減少したが、被爆線維芽細胞は癌細胞の増殖・浸潤を促進し、増殖マーカー(Ki-67)、増殖・浸潤関連分子(Raf-1,MEK-1,ERK-1/2[MAPkinase pathway],MMP-1,-9,1aminin5,filaminA)の発現及び遺伝子不安定性マーカーである53BP1の核内フォーカス(lrradiation-lnduced Foci:IRIF)形成を明瞭に促進した。しかし、癌細胞のアポトーシスマーカー(ss-DNA)発現に影響を及ぼさなかった。更に、被爆線維芽細胞には53BP1のフォーカス形成とTGF一β1の発現が見られたが、非被爆線維芽細胞にはこれらの分子の発現は見られなかった。

 

【考察・結論】

放射線被曝線維芽細胞は扁平上皮癌細胞の遺伝子不安定性を促進することにより、癌細胞の増殖・浸潤を増強させる。この遺伝子不安定性の仲介因子は、被爆線維芽細胞の産生するTGF一β1と考えられる。以上の結果は・癌の放射線療法において・癌細胞だけではなく・癌組織に存在する線維芽細胞などの間質細胞に対する放射線の影響を考慮する必要があることを示唆している。また、放射線治療後の癌の再発や2次発癌にも、放射線被曝線維芽細胞が関与して可能性を示唆するものである。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 徳永 藏

副査 山崎文朗

副査 寺東宏明

 

本論文は放射線被曝線維芽細胞が扁平上皮癌細胞の増殖・浸潤に及ぼす影響(Radiation-induced bystander effects)とその機序を解明する目的で研究を行った。

それによれば線維芽細胞株2株と扁平上皮癌細胞株2株を用いて12Gy放射線を照射した線維芽細胞をコラーゲン・ゲル内に包埋した後、そのゲル上に癌細胞を播種し、癌細胞のゲル内浸潤や増殖・アポトーシス・浸潤関連分子及び遺伝子不安定性を免疫組織化学、蛍光免疫組織化学、ウエスタンブロットで解析した。

放射線被曝線維芽細胞数はコントロールの約30%に減少するが、癌細胞の増殖・浸潤を促進し、それに関連する分子や遺伝子不安定性マーカーの発現が亢進したが、アポトーシスは増強しない。さらに被曝線維芽細胞にも遺伝子不安定性の増強とTGF-β1の発現が見られたが、コントロールでは見られない。

以上の成績は、癌の放射線療法において、癌細胞だけではなく、癌組織間質に存在する線維芽細胞などに対する放射線の影響を考慮する必要があることや、放射線治療後の癌の再発や2次発癌に放射線被曝線維芽細胞が関与している可能性を示唆するもので意義ある論文と考える。

よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。