論文の内容の要旨

 

【目的】

非消化性物質摂取が小腸粘膜の増殖・アポトーシスに及ぼす影響について検討した。

【方法】

非消化性物質として発泡スチロールを使用した。@自由摂食A72時間絶食B72時間絶食+発泡スチロール摂取の3群に割りつけ、小腸粘膜の増殖能およびアポトーシスを評価した。増殖能についてはBrdU取り込み率を、アポトーシスの評価については断片化DNA率、TUNEL染色を用いた。また、Caspase-3の発現をWestern blotにより評価した。

【結果】

自由摂食群に比べ絶食群ではBrdU取り込み率は有意な低下を認めた。発泡スチロール摂取群においてもBrdU取り込み率の低下を認めらたが、絶食群に比べ軽度であった。アポトーシスは自由摂食群に比べ絶食群において有意な増加が認められた。発泡スチロール摂取群においても断片化DNA率の増加、TUNEL陽性細胞の増加を認めたが、顕著ではなく、発泡スチロール摂取により絶食下における増殖抑制・アポトーシス増加が抑制された。活性化されたCaspase-3の発現は72時間摂食群に比べ、自由摂食群・発泡スチロール摂食群において優位な発現の減少が認められた。

【考察】

栄養素などの局所因子、食欲中枢などの中枢神経系に加え、さらに咀嚼や腸管の物理的刺激などが小腸粘膜の増殖・アポトーシスの制御に関与していると考えられた。

【結論】

絶食による小腸粘膜のアポトーシス増加は少なくとも一部は咀嚼や消化管への物理的刺激により影響を受け、抑制されることが示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 戸田 修二

副査 中房 祐司

副査 野出 孝一

 

本論文は、非消化性物質の摂取が小腸粘膜上皮の増殖・アポトーシスに及ぼす影響について、ラットを用いて検討している。非消化性物質として、発砲スチロールを使用し、1)自由摂食群、2)72時間絶食群、3)24時間絶食後に発泡スチロールを摂食する群(72時間)に分けて、増殖・アポトーシスをBrdU摂取率、DNA断片化率、TUNEL法、caspase-3ウェスタンブロットにより解析している。

これによると,絶食群、発泡スチロール摂取群では、自由摂食群に比較してBrdUの摂取率が低下した。絶食群では、アポトーシスが促進された(DNA断片化率の増加、TUNEL陽性細胞数の増加、caspase-3発現の増加)。発砲スチロール摂取群では、絶食群に比較してアポトーシスが抑制されたが、自由摂食群に比較してアポトーシスは有意に増加した。迷走神経切除により発泡スチロール摂取誘導性のアポトーシス抑制効果は、有意に抑制された。

以上の成績は,非消化性物質の摂取が、小腸粘膜の萎縮、アポトーシスを抑制することを明らかにしたものであり、小腸粘膜恒常性の新たな制御機構の可能性を示唆している。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。