論文の内容の要旨

 

【目的】

人工的な室内環境のコントロールは、高温多湿の夏の不快感を軽減させるものとして高く評価される。一方、冷え過ぎは冷房病などの身体不調を引き起こすことが懸念される。そこで、冷房環境が、そこで働く女性の健康へ与える影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】

女性銀行員26名と女子学生10名を対象とし、人工環境下(室温24±1℃、湿度55±

10%RH、気流0.15m/sec)における末梢部皮膚血流量の測定と快適感評価を実施した。

【結果】

女性銀行員の皮膚血流量は昼食前に最低値を示し、昼食後一旦増加した。冷えを有する群は有しない群に比較して、いずれの測定時においても有意に低値であった。女子学生の場合、冷えを有する群の昼食後の血流量の増加は見られなかった。

【考察】

皮膚血流量の昼食後の回復は、エネルギーの補給により皮膚血流が増加したことによるものと推察される。しかし、冷えを有する群の増加量は軽微であった。一般に「冷え症」は寒冷下では末梢部皮膚温の回復に時間を要し、躯幹部の中心温度を低下させる等の現象を惹起すると言われており、今回の成績は、この理論で説明可能である。

【結論】

職場の温熱環境整備は進み、快適環境で働くことが可能となった。しかし、顧客の快適性を重視した温度設定は、長時間働く労働者の冷え過ぎによる身体不調を生じさせることが予測され、本研究はそれを裏付けた。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査  田中 恵太郎 

副査 成澤 寛

副査 井上 範江

 

本論文は、冷房環境が女性の皮膚血流量と自覚的な快適感に及ぼす影響を、質問票によって調査した「冷え症」の有無別に検討している。

まず、女性銀行員26名を対象として、一定の冷房環境下(室温24-26℃、湿度55±10%RH、気流05m/sec)で昼食前(11:30-12:00)、昼食後(12:30-13:00)、勤務終了時(17:00-17:30)の3時点で検討したところ、いずれの測定時点でも冷えを有する群は有しない群に比較して、皮膚血流量が有意に低値であった。また、両群とも昼食後に皮膚血流量が増加したが、冷えを有する群の増加量は有しない群の半分であった。勤務終了時には、両群の皮膚血流量は昼食時より低下した。自覚的な快適感に明らかな差はなかった。次に、

女性学生10名を対象として、同様な冷房環境下で9:00から17:00まで1時間ごとに検討を行った結果、皮膚血流量は時間経過と共に低下する傾向があった。昼食後、皮膚血流量は冷えを有する群では増加しなかったが、冷えを有しない群では増加した。また、自覚的な快適感に両群間での差を認めた。

以上の成績は、冷房環境が女性(特に冷えを有する者)に及ぼす健康影響について新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。