論文の内容の要旨
【Introduction】
Thymidylate synthase
(TS)、dihydoropyrimidine
dehydrogenase (DPD)、orotate phosphoribosyl
transferase (OPRT)は、5-FUの感受性規定因子として世界的に認知されている蛋白である。今回我々は、新規に定量的二重蛍光免疫染色法(qDFIHC)を開発し、胃癌生検標本中のTS、DPD、OPRTの定量と5-FU系抗癌剤であるS-1の臨床効果との相関について解析した。
【material & methods】
対象は佐賀大学一般・消化器外科おいてS-1を基本とする術前化学療法を行った17例の治療前の胃生検ホルマリン固定標本で、効果判定は日本癌治療学会の指針に基づいて行った。 蛍光二重染色は、1次抗体にTS、DPD、OPRTポリクローナル抗体、β-actinモノクローナル抗体を使用し、β-actinにはCy3標識、TS、DPD、OPRTにはFITC標識の2次抗体を使用した。共焦点レーザー顕微鏡付属ソフトウェアで蛍光強度を測定、目的蛋白とβ-actinの総蛍光強度の比を蛋白定量値とし、OPRT/DPD、OPRT/TS、OPRT/(DPD+TS)の値と臨床効果との相関を解析した。
【results】
各解析値とS-1臨床効果との間で有意な相関を認めた(OPRT/DPD;P=0.0049、OPRT/TS; P=0.0067、OPRT/(DPD+TS); P=0.0013)。
【Conclusion】
qDFIHCは従来困難であったホルマリン固定標本や、極微量な組織からの蛋白定量を可能とする。また、その応用例であるTS、DPD、OPRT蛋白の定量は臨床効果と強い相関を示し、5-FU系抗癌剤の感受性予測法としての臨床応用も期待される。
論文審査の結果の要旨
主査 戸田修二
副査 藤本一眞
副査 山崎文朗
本論文は、抗癌剤である5-FUの感受性規定因子であるthymidylatesynthase(TS)、dihydoropyrimidine
dehydrogenase(DPD)、orotatephosphoribosyl transferase(OPRT)の発現を胃癌組織で検討するために、定量的二重蛍光免疫染色法(qDFIHC)を開発し、胃癌組織中のTS、DPD、OPRTの定量と5-FU系抗癌剤であるS-1の臨床効果との相関について解析している。材料は、佐賀大学一般・消化器外科おいてS-1を基本とする術前化学療法を行った17例の治療前の胃生検ホルマリン固定標本であり、効果判定は日本癌治療学会の指針に基づいて行っている。蛍光二重染色は、1次抗体にTS、DPD、OPRTポリクローナル抗体、β-actinモノクローナル抗体を使用し、β-actinにはcy3標識、TS、DPD、OPRTにはFITC標識の2次抗体を使用している。共焦点レーザー顕微鏡付属ソフトウェアで蛍光強度を測定、目的蛋白とβ-actinの総蛍光強度の比を蛋白定量値とし、OPRT/DPD、OPRT/TS、OPRT/(DPD+TS)の値と臨床効果との相関を解析している。
これによると、各解析値とS-1臨床効果との間で有意な相関(OPRT/DPD;P=0.0049、OPRT/TS;
P=0.0067、OPRT/DPD+TS);P=0.0013)を認めた。
以上の結果は、著者らが開発したqDFIHCは従来困難であったホルマリン固定標本や、極微量な組織からの蛋白定量を可能とすることをしめし、本法が5-FU系抗癌剤の感受性予測法として有用であることを示唆している。
よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。