論文の内容の要旨

 

【目的】

眼発生過程における神経堤細胞の分布を検索する。

 

【方法】

Protein 0をプロモーターにもつCre遺伝子導入マウス(Protein 0-Creマウス)と、Cre recombinase存在下においてCre-loxPシステムによりβ-ガラクトシダーゼを産生するRosa26R遺伝子改変マウスを交配した。胎生期および出生後のマウスから得られたサンプルを、X-galを用いて染色することにより、各発生段階の眼組織におけるβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞を描出した。

 

【結果】

β-ガラクトシダーゼ陽性細胞は胎生9.5(E9.5)ではすでに、眼周囲組織において検出された。角膜実質組織、角膜内皮細胞層、隅角組織、毛様体、第1次硝子体、眼瞼といった神経堤由来の組織で、E13.5からE18.5において強いX-gal染色性が認められた。出生後は角膜実質では徐々にその染色性は弱まったが、線維柱帯組織やシュレム氏管内壁といった隅角組織では染色性が維持されていた。

 

【結論】

Protein 0-Creマウスは、眼発生早期より眼神経堤細胞において、Cre recombinase産生を示す。Protein 0-Creマウスは、眼発生早期の前眼部形成に関わる分子の研究や、発達緑内障などの前眼部形成異常に伴う疾患の理解に有用なツールの一つとなりうると考えられる。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 埴原恒彦

副査 河野 史

副査 池田義孝

 

本論文は、眼発生過程における神経堤由来細胞の分布を明らかにする目的で、Protein-0をプロモーターにもつCre遺伝子導入マウスとCre recombinase存在下でCre-loxPシステムによりβ-ガラクトシダーゼを産生するRosa26R 遺伝子改編マウスを交配することにより得られたF1-hybridを用い、X-ga1染色により、発生段階の眼組織におけるβ-ガラクトシターゼ陽性細胞(=神経堤由来細胞)の検出を試みたものである。

B-ガラクトシダーゼ陽性細胞は胎生9.5日で眼周囲組織において認められ、さらに、胎生13.5〜18.5日には角膜実質組織、角膜内皮細胞層、隅角組織、毛様体、第1次硝子体、眼瞼といった神経堤由来組織で認められた。出生後は角膜実質では徐々にβ-ガラクトシダーゼ活性は弱まったが、  繊維柱帯組織や、シュレム氏管内壁といった隅角組織では、その活性は維持されていた。

以上の結果から、Protein O-Creマウスは、眼発生早期より、眼神経堤細胞において、Cre recombinase産生を示すことが明らかとなった。このことは、Protein O-Creマウスが、眼発生早期の前眼部形成に関わる分子の研究、発達緑内障などの前眼部形成異常に伴う疾患の理解に有用なツールとなり得ることを示唆しており、意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。