論文の内容の要旨

[目的]

アンジオテンシンUは動脈硬化の進展に重要な役割を果たす血管炎症を促進する。血管炎症において白血球の血管壁への浸潤を制御するケモカインの内皮細胞における発現に対するアンジオテンシンUの作用を検討した。

[方法及び結果]

 抗体アレイ法によりアンジオテンシンUによる培養内皮細胞からのIP-10の産生増加を見出した。マウスにおいて浸透圧ポンプによるアンジオテンシンU持続投与は血管内皮におけるIP-10発現を増加させた。定量的リアルタイムPCR法による解析では、アンジオテンシンUは培養内皮細胞におけるIP-10遺伝子発現を増加させた。これはアンジオテンシンU1型受容体拮抗薬により抑制された。IP-10及びアンジオテンシンUは培養内皮細胞におけるレニン・アンジオテンシン変換酵素・アンジオテンシノーゲンの遺伝子発現の増加を示した。アンジオテンシンUによるこれらの遺伝子発現誘導はIP-10に対する中和抗体によって抑制された。培養内皮細胞においてアンジオテンシンUにより誘導されるβガラクトシダーゼ陽性老化細胞数の増加とDNA断片化は、IP-10に対する中和抗体によって抑制された。

[考察]

アンジオテンシンUは、IP-10の発現誘導を介して内皮細胞レニン・アンジオテンシン系を活性化し、内皮細胞老化・細胞死を増加させることが示唆された。

[結論]

 内皮細胞において、アンジオテンシンUIP-10の発現誘導を介してレニン・アンジオテンシン変換酵素・アンジオテンシノーゲンの遺伝子発現を増加させる。

論文審査の結果の要旨

主査 徳永 藏

副査 出原 賢治

副査 井上 晃男

 

本論文はアンジオテンシンUの病態に及ぼす役割の中で、最近注目されている動脈硬化の進展に及ぼすケモカインを介した作用機序について、

培養血管内皮細胞や生化学的な手法を用いて検討を行ったものである。

これによると、抗体アレイ法によりアンジオテンシンUによる培養内皮細胞からのIP-10の産生増加を見出し、マウス心臓の血管内皮でもアンジオテンシンU投与によるIP-10の発現亢進が確認された。定量的リアルタイムPCR法による解析では、アンジオテンシンUは1型受容体を介して内皮細胞のIP-10遺伝子発現を亢進させることがわかり、さらにIP-10およびアンジオテンシンUは培養内皮細胞のレニン、アンジオテンシン変換酵素及びアンジオテンシノーゲンの遺伝子発現の亢進を示したが、IP-10に対する中和抗体によって抑制された。またアンジオテンシンUにより内皮細胞の老化とDNA断片化が誘導されたが、これもIP-10に対す

る中和抗体によって抑制された。

以上の結果は、アンジオテンシンUはIP-10を介して内皮細胞のレニン・アンジオテンシン系を活性化する一方で、内皮細胞老化・細胞死を促進することが示唆された。このことは従来全身的な循環調節の一つとして捉えられてきたレニン・アンジオテンシン系が、局所循環調節や炎症性ケモカインを介して動脈硬化などの発生・進展にも関与していることを示唆したものであり、意義あるものと考えられる。

よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。