論文の内容の要旨

 

【目的】

Marinesco-Sjögren syndrome(以下MSS)は小脳失調、若年性白内障、精神発達遅延、筋力低下などを呈する常染色体劣性遺伝性疾患である.

2005年MSSの原因遺伝子が同定され、SIL1遺伝子変異が原因となることが報告された.

これまで日本人MSS患者でSIL1遺伝子解析は行われておらず、今回3名の日本人MSS患者について調べた.

【方法】

患者、家族に遺伝子診断の利益、不利益について説明し文章にて同意を得た.全血よりDNAを抽出し、10個のSIL1遺伝子エクソンとその周辺のイントロンについてPCR法を用いて増幅しシークエンス反応を行った.

【結果】

3名の患者はMSSの臨床的、画像的特徴を呈していた.一家系のみで血族結婚の家族歴を認めた.3家系に血縁関係はなかった.この3名の日本人患者は同一の遺伝子変異、エクソン9にホモ接合体のG挿入を有していることを認めた.

【考察】

これまでSIL1遺伝子が解析された例は少数であり、人種による特有性、遺伝子型と表現型の関連性は明らかでない.本3例で認められたSIL1遺伝子変異はこれまで報告されておらず、日本人患者に特有の遺伝子変異である可能性が示唆された.   

【結論】

臨床的にMSSと診断された血縁関係のない日本人患者3名に同一の新たな遺伝子変異を認めた.また、SIL1遺伝子は人種が異なってもMSSの原因となりうることが明らかになった.

論文審査の結果の要旨

 

主査 副島英伸

副査 松島俊夫

副査 山田茂人

 

本論文は、常染色体劣性遺伝病であるMarinesco- Sjögren syndromeの原因遺伝子SIL1の変異を日本人症例3人について解析したものである。

 

これによると、末梢血由来のDNAを用いPCR-ダイレクトシークエンス法で変異解析した結果、3例すべてにSIL1遺伝子エクソン9に1塩基挿入(936_937insG)のホモ変異を認めた。これは、これまでに報告のない変異であり、目本人特有の可能性が示唆されると同時に、SIL1遺伝子変異は人種が異なっても本疾患の原因となりうることがわかった。しかしながら、本論文は、患者のみを対象にしていること、変異解析のみを行っていること、などから、審査委員合議のもと学位論文とするには修正が必要であると判断した。そのため、佐賀大学大学院医学系研究科学位授与実施細則第6条第2号(学位論文の審査留保)を適用し、追加関係資料の提出を求めた。

 

追加関係資料により、健常者10人には、患者で認められた遺伝子変異がないことが明らかとなり、SIL1遺伝子変異が本疾患の原因であることが確認された。

 

よって、本論文は博士(医学)学位論文として価値あるものと認めた。