論文内容の要旨

目的】

メルケル細胞の初代培養法を樹立し,メルケル細胞と神経細胞の相互作用を検討すること。

【方法】

ラット足蹠表皮から,ディスパーゼ消化にてメルケル細胞と表皮細胞の混合細胞を単離し,単層培養した。更に,この培養系に神経細胞(NG108-15 及びPC12 )を添加して,混合培養を行い,メルケル細胞と神経細胞との相互作用を検討した。細胞の形態,生存,増殖を組織化学,モルホメトリー,免疫組織化学,走査及び透過電顕にて解析した。更に,炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα)のメルケル細胞の増殖能に及ぼす影響を検討した。増殖能は,ブロモデオキシウリジン(BrdU)の24 時間標識で検討した。

【結果】

突起を有する星状細胞は,メルケル細胞マーカーであるサイトケラチン20陽性であり,メルケル細胞と同定した。これらの培養メルケル細胞は,生体のメルケル細胞と極めて類似した形態と微細構造を有していた。神経細胞との混合培養下では,神経細胞非共存下に比較して,メルケル細胞の生存数の増加とメルケル細胞への神経細胞突起の伸張が促進された。神経細胞とメルケル細胞の突起の接着部位では,シナプス様構造が形成された。メルケル細胞のBrdU標識は,全ての条件下で陰性であり,増殖能は確認できなかった。

【考察】

メルケル細胞の初代培養法を確立し,神経細胞との相互作用により,シナプス様構造を形成させた。これらの結果は,メルケル細胞が皮膚組織に神経を誘導することを示唆するものである。更に,メルケル細胞は終末分化した細胞であることが示唆された。

【結論】

ラット足蹠表皮のメルケル細胞の初代培養に成功し,神経細胞とのシナプス様構造を確認した。我々の培養法は,メルケル細胞の細胞生物学的研究を発展させる上で,重要な方法と考えられる。

 

論文審査の結果の要旨

主査 徳永 藏

副査 増子 貞彦

副査 熊本 栄一

 

本論文は皮膚メルケル細胞の初代培養の新たな方法を考案し,メルケル細胞と神経細胞の相互作用を検討したものである。

 それによればラット足蹠表皮から,ディスパーゼ消化にてメルケル細胞を含む表皮層を遊離した後トリプシンで短時間処理して,メルケル細胞と表皮細胞が混合した単層培養を行った。その中で突起を有する星状細胞は,サイトケラチン20陽性であり,電顕的に神経分泌顆粒を有し,表皮細胞への樹状様陥入もみられ,これらは生体のメルケル細胞と極めて類似した形態と微細構造を示したことから,メルケル細胞と同定した。さらにこの培養系と神経細胞株(NG108-5及びPC12)の混合培養を行うと,メルケル細胞の生存数の増加とメルケル細胞への神経細胞突起の伸張が促進された。神経細胞とメルケル細胞の突起の接着部位では,電顕的にシナプス様構造が形成されていた。なおメルケル細胞に増殖能は見られずむしろアポトーシスが多く見られたが,神経細胞株との混合培養や炎症性サイトカイン(IL-6TNFα)投与によりアポトーシスは抑制された。

 以上の成績は,メルケル細胞の新しい初代培養法を確立するとともに,メルケル細胞が神経を誘導することを示唆するものであり,メルケル細胞の細胞生物学的研究を発展させる上で意義ある論文と考える。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。