論文の内容の要旨

【目的】

内視鏡的粘膜切除術(従来法EMR)と内視鏡的粘膜切開・剥離術(ESD)治療成績の比較検討。

【方法】

245病変早期胃癌または胃腺腫に対して内視鏡切除を行った。19992月から20016月をグループA(従来法EMR),20017月から20043月をグループB(ESD)とした。さらにグループBESD導入初期である20017月から20033月までのB-1ESDの手技が安定したと考えられる2003 4月から20043月までのB-22群へ分類した。それぞれの群での一括切除率,完全一括切除率,所要時間,遺残率,合併症について比較した。

【結果】

10mmを超える病変での一括切除率,完全一括切除率はグループBにおいて有意に高い治療成績を示した。一方,手技時間ではグループBはグループAよりも有意に長時間を要した。しかしサブグループにおいて,特に10mm以下の病変に関してはESDの手技の安定したB-2では導入初期のB-1と比較して時間短縮がみられた。遺残率や穿孔率に関しては両群に差はみられなかった。

【考察】

正確な病理学的診断を得るためには病変の一括切除が理想とされる。ESDでは高い一括切除率が得られる一方,高度な技術が要求され,そのため合併症の発生率が高いと考えられている。

【結論】

ESDは従来法EMRと比較して一括切除率を向上させる。手技時間は要するが,その欠点は経験によって補うことができると考えられる。

 

論文審査の結果の要旨

 

主査 宮崎 耕治

副査 徳永 藏

副査 戸田 修二

 

本研究は胃腫瘍に対する内視鏡切除術として新しい内視鏡的粘膜切開・剥離術(ESD)の治療成績を従来法である内視鏡的粘膜切除術(EMR)のそれと比較して優劣を検討したものである。

方法は粘膜内癌と診断した癌,腺腫を対象とし,単一施設における1999年から2001年までの従来法による125病変と2001年から2004年までのESD法120病変とを切除時間,病変遺残率,一括切除率,遂行率,合併症としての穿孔率を指標として治療成績を比較検討し,さらにESD法を2003年までと2003年から2004年の二期に分け,経験学習度による成績克服性を検討した。

その結果,両群で遺残率, 穿孔率に有意差はなく,腫瘍径が大きいものでは一括切除率,遂行率においてESD法で長時間を要した。しかし,手技が安定した後期において小さな病変に対しては,時間の短縮が得られ,手技の習熟によりESDの難易度が克服される可能性を示した。

胃腫瘍の粘膜切除では治療の完遂性,診断の正確性において,病変の一括,完全切除が理想的であり,本論文は新しいESD法がこの目的のためにより有効であるが,高度な技術が要求されることを示し,後者は手技の習熟によって克服されうることを明らかにしたものである。

この結論から本論文を胃癌の縮小治療において新しいESD法がより有用であり,その手技の習熟により,新しい治療法として確立できることを示した意義あるものと判断した。