論文の内容の要旨

【目的・方法】

動脈硬化・血管リモデリングの形成に重要な役割を果たすと考えられているアンジオテンシンUの血管内皮細胞におけるT型カルシウムチャンネル発現に対する作用を明らかにするために,培養血管内皮細胞を用いてRT-PCR,蛍光抗体法によりT型カルシウムチャンネルサブユニットの発現を検討した。

【結果・考察】

アンジオテンシンUはAT₁受容体を介してT型カルシウムチャンネルα1Gサブユニットの発現を誘導した。アンジオテンシンUによるα1Gサブユニットの発現誘導はアトルバスタチン,MEK1/2阻害剤PD98059により抑制された。アトルバスタチンの作用は,低分子量G蛋白質Rasの活性化に重要なメバロン酸,ファルネシルピロフォスフェートにより抑制されたことから,アンジオテンシンUは,血管内皮細胞においてAT₁受容体,RasMEK1/2の活性化を介してα1Gサブユニットの発現を誘導すると考えられる。アンジオテンシンUにより促進される内皮細胞の遊走はT型カルシウムチャンネル阻害剤ミベフラジルにより抑制されたことから,アンジオテンシンUにより発現誘導されるT型カルシウムチャンネルは内皮細胞機能制御に関与することが示唆される。

【結論】

血管内皮細胞においてアンジオテンシンUにより発現誘導されるT型カルシウムチャンネルは,血管障害の発症に関与し,スタチンが抑制する可能性が示唆される。

 

論文審査の結果の要旨

主査 頴 原 嗣 尚

副査 伊 藤   翼

副査 熊 本 栄 一

 

本論文は,動脈硬化・血管リモデリングの形成に関わるとされるアンジオテンシンIIの血管内皮細胞におけるT型カルシウムチャネル発現に対する作用,及びその作用に対するスタチンの効果を,培養血管内皮細胞を用いてRT-PCRと蛍光抗体法により調べたものである。

アンジオテンシンIIAT1受容体を介してT型カルシウムチャネルa1Gサブユニットの発現を誘導した。この発現誘導はアトルバスタチン及びMEK1/2阻害剤PD98059により抑制された。アトルバスタチンの作用は,低分子量Gタンパク質Rasの活性化に重要なメバロン酸及びファルネシルピロフォスフェートにより抑制されたことから,アンジオテンシンIIは,血管内皮細胞においてAT1受容体,RasMEK1/2の活性化を介してa1Gサブユニットの発現を誘導すると考えられた。

アンジオテンシンIIにより促進される内皮細胞の遊走はT型カルシウムチャネル阻害剤ミベフラジルにより抑制されたことから,アンジオテンシンIIにより発現誘導されるT型カルシウムチャネルは内皮細胞機能制御に関与することが示唆された。

 

以上の成績は,アンジオテンシンII及びスタチンの血管内皮細胞における生理学的また病態生理学的役割に関して新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。

 

  よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。