論文の内容の要旨

【目的】

強皮症線維芽細胞において,Hepatocyte growth factorHGF)のコラーゲン代謝への影響とそのメカニズムについて検討した。

【方法】

強皮症患者および健常人各6名の皮膚線維芽細胞をrHGF100ng/mlと共に培養し,培養上清中のmatrix metalloproteinaseMMP-1およびコラーゲン産生をELISAにて,MMP-1procollagenα1(I),connective tissue growth factorCTGF),c-MetEts-1Transforming growth factorTGF-β1,InterferonIFN-γ,InterleukinIL-6mRNAreal-time PCRにて測定した。

【結果】

HGF処理により,強皮症および正常線維芽細胞培養上清中のMMP-1産生は有意に増加し,コラーゲン産生は有意に減少した(強皮症細胞により大きな影響あり)。また,HGFMMP-1Ets-1mRNA発現を有意に増加させ,Procollagenα1(I)およびCTGF発現は強皮症細胞でのみ有意に減少した。IFN-γ発現は,HGF処理により有意に上昇し,TGF-β1,c-MetおよびIL-6には有意な変化はみられなかった。

【結論】

強皮症細胞においてHGFは転写因子Ets-1を介してMMP-1濃度を上昇させ,またCTGF発現抑制およびIFN-γ発現増加を介してコラーゲン産生を減少させることにより,コラーゲン増加を抑制するメカニズムが考えられた。HGFは有効な治療法のない強皮症において有望な治療薬の1つとなる可能性が示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 成澤 寛

副査 出原 賢治

副査 吉田 裕樹

 

本論文は膠原病疾患の中で病態および治療の解明が最も遅れている強皮症を研究対象としたもので,特に強皮症患者の線維芽細胞における,Hepatocyte growth factor(HGF)のコラーゲン代謝への影響とそのメカニズムについて検討したものである。

 その方法としては,強皮症患者6名(全身型3名,限局型3名)および年齢・性をマッチさせた健常人6名から生検により得られた線維芽細胞にrHGF100ng/mlを添加して培養し、培養上清中のMMP-1およびコラーゲン産生をELISA,さらにMMP-1, Procollagenα1(T), CTGF, c-Met, Ets-1, TGF-β1,INF-γ, IL-6の各mRNAreal-time PCRで測定した。

 その結果としては,HGF処理より,強皮症および正常線維芽細胞培養上清中のMMP-1産生は有意に増加し,コラーゲン産生は有意に減少した。また,HGFMMP-1, Ets-1mRNA発現を有意に増加させ,Procollagenα1(T)およびCTGF発現は強皮症細胞でのみ有意に減少した。IFN-γ発現は,HGF処理により有意に上昇し,TGF-β1, c-MetおよびIL-6には有意な変化は見られなかった。

 以上の結果から,強皮症患者の線維芽細胞において,HGFは転写因子Ets-1を介してMMP-1濃度を上昇させ,またCTGF発現抑制およびINF-γ発現増加を介してコラーゲン産生を減少させることにより,コラーゲン増加を抑制するメカニズムが考えられた。従って,HGFが強皮症の有効な治療薬がない現状において,その1つとなりうる可能性を示唆した。