論文内容の要旨

【目的】

肝炎ウイルス同様,飲酒による肝発癌促進が報告されてきた。アルコール代謝に関わる酵素ADH2ALDH2には活性差がある遺伝子多型が存在し,特にALDH2活性が低い者では飲酒後血中アセトアルデヒド濃度が上昇しやすく発癌リスクが高まる可能性がある。本症例対照研究は,この多型が飲酒による肝癌リスクに影響を及ぼしているかを検討したものである。

【方法】

症例群(209)は,2001年1月〜2004年3月に確定診断を受けた初発の肝細胞癌患者とした。対照群として病院対照群(275)と慢性肝疾患群(381)の2群を設定した。全対象者に対し生活習慣等の調査と採血(HBs抗原,HCV抗体を測定)を行った。遺伝子型は,Duplex PCR-CTPP法にて決定した。

【結果】

平均3/日以上の飲酒は遺伝子型に関わらず両対照群との比較で有意な肝癌リスクの上昇を示した。平均3/日未満の飲酒は,ALDH2遺伝子型別の解析で不活性型の者においてのみ肝癌リスクの上昇を示し,ADH2遺伝子型を含めた解析では理論上最も飲酒後に血中アセトアルデヒド濃度が上昇すると考えられるADH2活性型とALDH2不活性型の組み合わせを持つ者で最も高い肝癌リスクを示した。

【考察】

飲酒の肝発癌にはアセトアルデヒドが関与していると考えられたが,多飲者ではアセトアルデヒドとは別に大きな発癌機序が関与しているものと考えられた。

【結論】

ADH2ALDH2遺伝子多型は小・中等量の飲酒者における肝癌リスクに影響を与えている可能性が示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 藤本 一眞

副査 宮崎 耕治

副査 戸田 修二

 

 アルコール代謝に関わる酵素ADH2ALDH2には活性差がある遺伝子多型が存在し,ALDH2活性が低い者では飲酒後血中アセトアルデヒド濃度が上昇しやすく発癌リスクが高まる可能性がある。本症例対照研究は,この多型が飲酒による肝癌リスクに影響を及ぼしているかを検討したものである。

 症例群(209名)は,2001年1月〜20043月に確定診断を受けた初発の肝細胞癌患者で,対照群として病院対照群(275名)と慢性肝疾患群(381名)の2群を設定した。生活習慣等の調査と採血(HBs抗原,HCV抗体を測定)を行い,遺伝子型はDuplexPCR-CTPP法にて決定した。平均3/日以上の飲酒は遺伝子型に関わらず両対照群との比較で有意な肝癌リスクの上昇を示した。平均3/日未満の飲酒は,ALDH2遺伝子型別の解析で不活性型の者においてのみ肝癌リスクの上昇を示し,ADH2遺伝子型を含めた解析では飲酒後に血中アセトアルデヒド濃度が上昇すると考えられるADH2活性型とALDH2不活性型の組み合わせを持つ者で最も高い肝癌リスクを示した。

 以上の結果は,ADH2ALDH2遺伝子多型は小・中等量の飲酒者における肝癌リスクに影響を与えている可能性を示すものであった。

 よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。