論文の内容の要旨

【研究の目的】

高度が結核感染に予防的に作用するか否かは十分に解明されていない。これまで南米ペルーの高地の農村部におけるツベルクリン反応の陽性率は低地の都市部や農村部のそれに比べて極めて低いことを報告した。本研究では,結核感染が高地の都市部においても低率であるかを評価することを目的として調査を行った。

【方法】

高度22403240mにある都市部の4つのコミュニティにて1233名にツベルクリン単位を皮内注射し,4872時間後に判定を行い,危険因子や社会的因子についての質問表を行い,身長体重,BCG接種痕の有無を記録した。すでに報告した5つのコミュニティのデータと合わせ,合計つのコミュニティにおける3629名について高地や都市部に居住することがツベルクリン反応陽性率に与える影響について分析した。クラスタリング()と他の関連因子の影響をGeneralized Estimating Equations (GEE)モデルを用いて調整した。

【結果】

年齢,ツベルクリン陽性者または結核患者との同居,BCG接種の有無を調整した結果,都市部の高地と低地においてツベルクリン反応陽性率は同等で,農村部にみられるような高地における陽性率の減少は認めなかった(二群間の調整オッズ比の差=1.12 95%信頼区間=0.95—1.33

【考察】

都市部では,結核患者との接触機会が多いことが,高度が及ぼす予防的な影響よりも大きく結核感染に影響すると考えられる。

【結論】

高地の都市部においては,低地と同様の結核感染予防対策が必要である

 

論文審査の結果の要旨

主査 田中 恵太郎

副査 宮本 比呂志

副査 長澤 浩平

 

本論文は,南米ペルーにおける疫学調査に基づいて,高度が結核感染に予防的に作用するかどうかについて検討したものである。結核感染の指標としてツベルクリン反応陽性率を用いており,以前にペルーのつのコミュニティで調査を行い,高地の農村部でのツベルクリン反応陽性率が低地の都市部・農村部と比べて極めて低い事を報告した。しかし,この調査では高地の都市部が含まれていなかったため,今回新たに高度2,240-3,240mにある都市部のつのコミュニティ1,233名の調査を追加して,全体としてつのコミュニティ3,629名の検討を行っている。

  これによると,他の危険因子(年齢,結核感染者との同居の有無,BCG接種歴など)を調整した結果,都市部の高地と低地においてツベルクリン反応陽性率は同等で,農村部に見られるような高地における陽性率の減少は見られなかった。この事は,都市部では,結核患者との接触機会が多いことが,高度が及ぼす予防的な影響よりも大きく結核感染に影響するためと考えられた。したがって,高地の都市部では,低地と同様の結核予防対策が必要である事が示された。高度以外の要因として,男性,年齢,結核感染者との同居,BCG接種歴がツベルクリン反応陽性率と関連していた。

  以上の成績は,高度と結核感染の関連について新しい知見を加え,また予防医学的な見地からも意義あるものと考えられる。

  よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。