論文内容の要旨

【目的】

H.pylori(以下HP)感染及びNSAIDs使用は消化性潰瘍の主因であるが,本邦における出血性潰瘍についての検討は少なく,その特徴を検討した。

【方法】

2000年より2002年の3年間,出血性胃・十二指腸潰瘍の患者でNSAIDs使用の有無およびHP感染の有無により4群に分け比較検討した。

【結果】

対象症例は116例で,HP陽性でNSAIDs陰性群(HP(+)N())は70例(60.3%Group A),HP()N()群;18例(15.5%Group B),HP()N()群;15例(12.9%Group C),HP()N()群;13例(11.2%Group D)で,NSAIDs関連の出血性潰瘍は全体の約28%であった。14例は低用量アスピリンを使用していた。年齢はGroup BCで高く,基礎疾患を有する患者が多かった。Group Dでは,11例に内視鏡的胃粘膜萎縮を認め,過去のHP感染と考えられた。また,重篤な基礎疾患を有する患者が多かった。胃粘膜リン脂質のphosphatidylcholinephosphatidylethanolamineは,健常者と比較して全てのGroupで低下していた。

【結論】

出血性潰瘍患者の28.4%NSAIDsを使用しており,低用量アスピリンや頓用でも潰瘍出血を来しうる。非HPNSAIDs潰瘍患者は,2例のみ(1.7%)であった。

 

論文審査の結果の要旨

主査 宮崎 耕治

副査 宮本 比呂志

副査 徳永 藏

 

 本論文は本邦における出血性潰瘍の病態を背景因子としてとくにHelicobacter pylori(HP)感染と非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)使用に注目して解析した論文である。

方法は2000年から2002年までの3年間の佐賀大学消化器内科における出血性胃・十二指腸潰瘍患者116例をHP感染,NSAIDs使用の有無により4群に分類し,頻度,年齢,性別,部位,常用か非常用服薬か,合併疾患,死亡数について解析し,両因子を持たない出血性潰瘍群の背景因子についても検討を加えた。さらに胃幽門粘膜におけるリン脂質を定量し,その意義を考察した。

 その結果,HP陽性でNSAIDs非服用群は70例(60.3%),HP陽性・NSAIDs服用群は18例(15.5%),HP陰性・NSAIDs服用群15例(12.9%),HP陰性・NSAID非服用群13例(11.2%)であり,HP陽性が75.9%を占め,NSAIDs服用は28.4%であり,その42%は低用量アスピリン服用者であった。年齢はNSAIDs服用者で高く,重篤な基礎疾患を有する患者が多い。両者陰性群では13例中11例に内視鏡的に胃粘膜の萎縮を認め,過去のHP感染が示唆された。また,胃粘膜リン脂質は健常者に比べ出血性潰瘍すべての群で低下していた。

以上の結果は本邦における出血性潰瘍の背景病態を明らかにし,低用量のアスピリン服用でも潰瘍出血を来しうることを示して警鐘するものであり,学位論文として意義あるものと判断した。