論文の内容の要旨

【研究の目的】

多発性硬化症(MS)の動物実験モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスにインターロイキン2IL-2)で活性化させたナチュラルキラー(NK)細胞(NK-LAK細胞)を移入し,EAEに対する効果を検討した。

【方法】

B6マウスをMOGペプチドで感作しEAEを惹起。まず,EAEマウスの中枢神経系(CNS)から単核球を分離し,その亜分画を解析。ついで,未感作マウスの脾臓由来のNK-LAK細胞をEAEマウスに投与し病勢(スコア)の変化を観察。さらに,投与されたNK-LAK細胞がCNSに移入するかどうか,EGFP遺伝子トランスジェニックマウス(グリーンマウス)由来のNK-LAK細胞を用いて解析した。

【結果】

CNS内のNK細胞数はEAEスコアと並行して増減していた。1×106個のB6マウス由来のNK-LAK細胞を感作後71421日に静注するとEAEスコアは抑制されたが,皮下注射や感作前日・714日の静注では無効だった。また,NKT-KO B6マウス由来のNK-LAK細胞の方が抑制効果は強かった。グリーンマウス由来のNK-LAK細胞はEAEマウスのCNSから検出され,感作後の時間経過とともに減少した。

【考察】

NK-LAK細胞はEAEを抑制した。その機序は末梢での液性因子放出ではなく,CNS内への移入・局所での直接の炎症抑制と思われた。局所での作用は,自己免疫性T細胞の傷害・局所に存在する抗原提示細胞の傷害・NK-LAK細胞からの神経栄養因子(NT-3BDNFなど)の放出が考えられた。

【結論】

活性化NK細胞がEAEを抑制することが示された。これは,MSに対する細胞免疫療法として,活性化NK細胞の投与が有効な可能性を示唆する。

 

論文審査の結果の要旨

主査 吉田 裕樹

副査 出原 賢治

副査 長澤 浩平

 

本論文では,ヒトの多発性硬化症のモデルとされる実験性自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に対して,リンホカインで活性化したNK細胞(LAK)が抑制作用を示すことを研究している。

これによると,EAEでは,臨床症状の変化と一致して脳内にリンパ球の浸潤が認められ,この一部にNK細胞が含まれている。NK細胞を除去するとEAEの悪化が見られることから,NK細胞にEAE抑制作用があることが考えられ,IL-2存在下で増殖したNK細胞を移入したところ,EAEの抑制効果が認められた。NK細胞の亜集団であるNKT細胞を持たないマウス由来の活性化NK細胞も抑制効果を示したことから,この作用はNKTではなくNK細胞に依存していた実際,移入したNK細胞は,脳内に浸潤していることが確認された。

以上のデータは,リンホカイン(IL-2)により活性化したNK細胞(LAK)が,EAEや多発性硬化症に対する治療効果を持つことを示しており,意義あるものと考えられた。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。