論文の内容の要旨

【目的】

股関節疾患に影響を与える骨盤傾斜を確認するため,これまで側面像も撮影する必要があった。最近,正面単純X線像のみで骨盤傾斜を推測する方法が報告され活用されている。しかし,計算式が直線式であるために誤差が大きい。今回の目的は,骨盤傾斜を正面像より評価する方法を簡便にし,かつ正確にすることである。

【方法】

股関節疾患をもつ286名を対象にした。立位にて股関節正面像と側面像を撮影し,次に示す二つの値の計測を行った。一つは,正面単純X線像における仙腸関節下縁と恥骨上縁の高さH,もう一つは,側面単純X線像において,恥骨から仙腸関節下縁までの距離Dである。それらの二つの値を,理論的に導いたH=Dsinθの計算式に代入し,骨盤傾斜角度を求めた。側面像より得られるDを省略するために,Dを平均値で代入したもの,H=D(ave)sinθを計算式Aとし,計算@Aによって計算した値と,側面像より実際に計測した実測値とを比較検討した。

【結果】

計算式@と実測値,計算式Aと実測値,計算式@と計算式Aは有意な相関を示した。

【考察】

HDの二つを推定したものと,Hのみで推定したものとに差は見られなかった。したがって,正面像の骨盤腔の高さのみを使用した計算式Aで骨盤傾斜角度を予測したほうがより簡便である。

【結論】

正面のみで骨盤傾斜を予測する今回の方法は,簡便でスクリーニングとして有用である。

 

論文審査の結果の要旨

主査 工藤 祥

副査 埴原 恒彦

副査 後藤 昌昭

 

 本論文は,種々の股関節疾患の治療方針に影響を与える骨盤傾斜角度を骨盤部X線正面像のみで推測する簡便な方法を考案し,報告したものである。

 これによると,骨盤傾斜角度は骨盤部X線側面像で測定するのが正式であるが,日常の経過観察において正面像のみでスクリーニングする方法があれば撮影の手間が省け,患者の苦痛やX線被爆も軽減できる。その目的で様々な方法が考案されてきたが,従来提案された計算式はいずれも直線式であるため誤差が大きかった。そこで,著者らは,誤差を小さくするには三角関数による計算式が求められると考え,成人女性236名,成人男性57名の骨盤部X線写真側面像において恥骨から仙腸関節下縁までの距離Dの男女別の平均値D(ave)を求め,各人の正面X線像における仙腸関節下縁と恥骨上縁の高さの計測値をHとして,H=D(ave)sinθ2の計算式に代入して骨盤傾斜角θ2を求めたところ,θ2は,各人の実際の側面像から直接計測した傾斜角θ0,および正面像よりH,側面像よりDを計測してH=Dsinθ1で求めた骨盤傾斜角θ1の両方と有意な相関を示した。また,計測者による計測値の再現性も有意であった。

 以上の成績は,骨盤部X線正面像のみで骨盤傾斜角を簡便に予測できる有用な方法の提言であり,日常診療において応用性の広いものであると考えられた。

 よって,本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。