論文の内容の要旨

【目的】

二葉式機械弁による三尖弁置換術の至適縫着方向については,いまだ明確な結論はでていない。心臓内視鏡により三尖弁位二葉式機械弁の開閉動態の縫着方向による効果を解析した。

【方法】

12頭(体重5059Kg)に対し心停止下に,二葉式機械弁による三尖弁置換術を施行。6頭は人工弁を水平方向に縫着(水平群)し,他の6頭は垂直方向に縫着(垂直群)。心臓に透明な人工栄養液(Krebs-Henseleit)を灌流し,心室ペーシングで心拍数を変化させながら(心拍数HR 60,90,120,150/分),心臓内視鏡にて機械弁を観察し,high-speed video systemで記録。機械弁の弁尖の閉鎖時間のずれ(closing time lag: CTL)を計算し,二群間での比較検討を行なった。

【結果】

水平群では下弁の開放が不十分で,また上弁に比べより早く閉鎖する傾向がみられた。二弁尖間のCTLはそれぞれHR60: 303±60 ms HR90: 65±48 msHR120: 40±9 ms HR150: 40±26 msとなった。これに対して垂直群では左右の弁尖間のCTLは水平群に比べ短く,それぞれHR60: 9±12 ms HR90: 11±10 ms HR120: 1±3 ms HR150: 6±7 msとなった。すべての心拍数でのCTLにおいて二群間に有意差を認めた(p<0.01)

【考察、結論】

三尖弁位に縫着された二葉式機械弁の方向は,弁尖の動きに対して大きな影響を及ぼす。水平に縫着された場合,下弁の開放は不十分で,上弁より早く閉鎖する。これらの結果は重力が弁尖の開閉運動に影響を与えており,二葉式機械弁による三尖弁置換術時には,異常な弁の動きと血栓形成を予防する為にも垂直方向に縫着すべきである事が示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 野出 孝一

副査 中島 幹夫

副査 頴原 嗣尚

 

本論文は,二葉式機械弁による三尖弁置換術の至適縫着方向について検討している

 豚12頭に対し,心停止下に二葉式機械弁による三尖弁置換術を施行。心臓に透明な人工栄養液を灌流し,心室ペーシングで心拍数を変化させながら,心臓内視鏡にて機械弁を観察し,high-speed video systemで記録。水平方向に縫着した群と垂直方向に縫着した群での機械弁の弁尖の閉鎖時間のずれを比較検討した。

水平群では下弁の開放が不十分で,また上弁に比べより早く閉鎖する傾向を認めた。二弁尖間のclosing time lag(CTL)はそれぞれHR60303±60msHR150:40±26msとなった。これに対して,垂直群では左右の弁尖間のCTLは水平群に比べて短く,それぞれHR60:9±12msHR90:11±10msHR120:1±3msHR1506±7msとなった。すべての心拍数でのCTLにおいて二群間に有意な差を認めている。

  以上の成績は,二葉式機械弁による三尖弁置換術の際に,異常な弁の動きと血栓形成を予防するためにも垂直方向に縫着すべきであることを示唆しており,臨床的に意義あるものと考える。

  よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。