論文内容の要旨

【目的】

ウシガエル腰部交感神経節細胞は,細胞外へのカフェイン投与でカルシウムを小胞体からカフェイン濃度依存的に細胞質内に放出する(カフェイン応答)ことが知られてしる。本研究は,カフェイン応答を起こすことが出来ない濃度のカフェインを繰り返し投与することで,カフェイン応答が起こるようになる現象を見いだし,その機構を解明した。

【方法】

培養ウシガエル腰部交感神経細胞にカルシウム感受性蛍光色素であるFura2/AMまたはFura6F/AMを負荷して,細胞質カルシウム濃度変化を測定した。

【結果】

カフェイン応答を起こさない濃度のカフェインを繰り返し投与すると,はじめは無応答であるが,だんだんと大きさが変化し,最終的には,一定の最大応答を引き起こした。また,繰り返し投与だけではなく,長時間投与によっても同様のカフェイン応答を起こした。細胞内のcAMPやカルシウム濃度の上昇は,その現象に関与しなかった。

【考察】

小胞体からのカルシウム放出は@細胞内カルシウム濃度上昇,A小胞体内のカルシウム濃度上昇,そしてBカルシウム放出チャネルの細胞質カルシウムに対する感受性の変化,によって調節されている。本研究の結果より,低濃度カフェインの繰り返し投与によって起こるカフェイン応答の変化はBの変化に伴うものと考察した。

【結論】

カフェインの繰り返し投与はカルシウム放出の感受性を変えることが分かった。

 

論文審査の結果の要旨

主査 頴原 嗣尚

副査 黒田 康夫

副査 増子 貞彦

 

 本論文は,カフェインの繰り返し投与により,カルシウム放出が大きくなる現象といった可塑的な現象を見いだし,その機序を解明したものである。

 ウシガエル腰部交感神経節細胞内に存在するカルシウムストアは,カフェイン濃度依存的にカルシウムを細胞質内に放出することが知られている。しかし,本論文によると細胞質カルシウム濃度変化を引き起こさない濃度のカフェインを繰り返し投与すると,カルシウム増加が生じ,徐々に大きくなり,最終的には最大の増加量を示すことを,カルシウム感受性蛍光色素であるFura-2を用いて直接細胞内カルシウム濃度を測定することで見つけている。この機序の解明を試み,カフェインの継続投与でもカルシウム放出が大きくなるが,高カリウム液の繰り返し投与ではカルシウム放出増加は引き起こされず,またカフェインのカルシウム放出外の作用を検証することで,カフェインの繰り返し投与は,カルシウム放出の閾値を低下させることによると結論づけた。

 以上の成績は,細胞内のカルシウム貯蔵部位である小胞体からのカルシウム放出の機序について,新しい知見を加えたものであり,細胞内カルシウム動態に関係する現象を解明したものとして意義あるものと考えられる。

 よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。