論文の内容の要旨

【目的】

日本人におけるセメントレス人工股関節全置換術(以下THA)後の異所性骨化(以下HO)出現について調査し,統計学的解析により危険因子を明らかにすること。

【方法】

19989月〜20035月に行ったセメントレスTHA 8851061股のうち,術後1年以上追跡できた8301000股(男性 147166股、女性683834股)を対象とした。全例同一術者が,脊椎麻酔,後側方進入を用いて行った。これらの症例に対し,HO出現の有無を調査し,年齢,性,機種,術前診断(変形性股関節症(以下OA):Bombelli分類,強直股等),術前可動域,術後脱臼の有無,手術時間,総出血量,NSAIDs内服の有無との関連を統計学的に解析した。

【結果】

1000股中52股(5.2%)にHOを認めた。多変量解析を行い,危険因子として強直股,hypertrophic OA,機種(ceramic-on-ceramic)(オッズ比:11.1,2.7,2.5倍)が有意であった。

【考察】

強直股,hypertrophic OAはこれまでも危険因子として報告はあるが,機種ceramic-on-ceramicの報告はなく,説明は困難である。HOの出現頻度は,これまでの報告の中でも低く,日本人では積極的な予防は必要ないと考えられた。  

【結論】

日本人におけるセメントレスTHA後のHO出現の危険因子を明らかにできた。

 

論文審査の結果の要旨

主査 後藤 昌昭

副査 工藤 祥

副査 堀川 悦夫

 

 本論文の目的は日本人のセメントレス人工股関節全置換術(THA)後の異所性骨化の出現について調査し,危険因子を明らかにすることであった。

 過去五年間に当院でTHAを行い,1年以上の経過観察を行った830例,1000股を対象として,年齢,性,機種,術前診断,術前可動域,術後脱臼の有無,手術時間,総出血量,NSAIDs内服の有無につき統計学的に解析した。

 術後の異所性骨化は1000股中52股,5.2%に認められ,classI34股,classU,classVが各々9であった。多変量解析の結果,危険因子として強直股,肥大性骨関節炎の他に,インプラントの機種も選択もされた。

 本研究はTHA後の患者についてHOの出現頻度を調査したものでは最大の症例数を有するものである。Ceramic-on-ceramicのインプラントにおいてHOが生じる危険因子として選択された理由としては,わずかなdebrisが引き起こしたと推測している。本研究ではすべてcementlessであったがcementを使用した場合との比較も今後必要と考えている。また日本人におけるHOの発生頻度は5.2%と低いものの,9例,0.9%では重篤なHOが認められたことから,本研究で明らかにされた危険因子を有する患者のTHA術後にHOの発生に留意しなければならないと結論付けている。

 以上の結果はTHA術後のHOの発生とその原因を臨床統計学的に分析したものであり,臨床的に意義あるものと考えられる。よって,本論分は博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。