論文の内容の要旨
【目的】
原発性手掌多汗症(PPH)は,手掌の多量発汗を特徴とする疾患である。その原因は,交感神経の過緊張や自律神経系の機能障害とされているが明らかでない。これまでの報告からPPHは常染色体優性遺伝を示すことが示唆されていたが,遺伝的解析は行われていない。本研究では,PPHの原因遺伝子座を同定するためにDNA多型マーカーを用いて連鎖解析を行った。
【方法・結果】
PPHの11家系(患者42名と非患者40名)を対象とした。診断は,視診,問診,発汗計による発汗量の測定により行った。対象者よりDNAを抽出し,ゲノム全体に分布するDNA多型マーカーを用いて連鎖解析を行い,候補領域を10ヵ所得た。これより,二点解析でのD14S283とD14S264における3家系の最高ロッドスコアの和(組み換え率 =
0)は,それぞれ3.08,3.16とわかった。この領域は14番染色体長腕11.2-13(14q11.2-q13)に相当した。他の8家系では除外された。次に,それぞれの候補領域について領域特異的なDNA多型マーカーを用いて,この3家系のハプロタイプ解析を行った。その結果,PPHの遺伝子座は14q11.2-q13であることが確認され,最小D14S1070-D14S990の6-cM間,最大D14S1070-D14S70の30-cM間にあると考えられた。
【考察】
14q11.2-q13は他の8家系では除外されたことから,PPHの遺伝子座が複数存在すると考えられた。しかし,14q11.2-q13はゲノム全体で最も高いロッドスコアを示すことからPPHの最有力遺伝子座であることは明らかである。本研究はPPHの原因遺伝子座をマップした初めての報告である。
【結論】
ゲノムワイド連鎖解析によりPPHの遺伝子座を14q11.2-q13と同定した。
論文審査の結果の要旨
主査 吉田 裕樹
副査 出原 賢治
副査 成澤 寛
本論文では,原発性手掌多汗症(PPH)の原因遺伝子座を同定するために連鎖解析を行っている。
これによると,PPHの11家系(患者42名と非患者40名)に対して,PPHの診断を行い,また対象者のDNAを得てゲノム全体のDNA多型マーカーを用いて連鎖解析を行った。この連鎖解析によりいずれかの家系で高いLODスコアを示す10領域を得た。このうち,D14S283は3家系で高いLODスコアを示した。この領域は,14番染色体長腕1.2-13に相当した。マーカー間の組み換えの検討から,さらに最短でD14S1070とD14S70の間の6.0cMの領域に原因遺伝子があるものと考えられた。(最大で,D14S1070-D14S70の間の30cMの間)ただし,他の8家系ではこの領域の関与は除外されたためこの領域の原因遺伝子の発現に影響を与える別の領域の関与が示唆された。
以上の結果は,PPHの原因遺伝子の有力遺伝子座が14q11.2-q13にあることを示す,意義あるデータである。
よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。