論文の内容の要旨

【目的】

胃食道逆流症(GERD)患者の嚥下困難感に対し,プロトンポンプ阻害剤(PPI)の治療効

を検討した。

【方法】

GERDで嚥下困難感を愁訴とする外来患者68人に対し,PPI(ラベプラゾール20mg/日)

で8週間治療を行った。GERDの診断は内視鏡検査またはpHモニターで行い,問診で評価

した。嚥下困難感改善がみられた患者で承諾の得られた16人に,PPI6ヶ月間投与し,5

人については治療の前,2週間後,6ヵ月後でpHモニターを行った。嚥下困難感が完全に消

失した40人をGroup I,一部改善または不変であった28人をGroup IIに分類し,2群間の

背景を多変量解析にて比較した。

【結果】

60%において症状が完全に消失した。またGroup III2群間において,その背景因子

についてspearman’sの順位相関にて検定を行った。有意差を認めた因子は,“胸やけ症状の

改善”(p=0.0025)のみであった。問診あるいはpHモニターの結果から,PPI長期投与でも

GERDの治癒効果は持続した。

【考察】

逆流性食道炎に伴う嚥下困難感はPPIにより改善した。改善度は内視鏡重症度を含むPPI

与前の指標によっては判定が出来なかった。胸やけ症状の改善と嚥下困難感の改善に相関を

認めた。

【結論】

逆流性食道炎に伴う嚥下困難感はPPIにより治療可能であり,その効果は持続する可能性が示された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 宮ア 耕治

副査 長澤 浩平

副査 井之口 昭

 

 本研究は逆流性食道炎の非定型症状である嚥下困難感に対するプロトンポンプ阻害剤(PPI)であるラベプラゾール・ナトリウムの治療効果を検討したものである。方法は逆流性食道炎患者で嚥下困難感を悠訴とする外来患者68人に対し,PPI常用量(ラベプラゾール・ナトリウム20mg/日)を8週間投与し,治療前後で問診,内視鏡検査を行い,治療効果を検討するとともに嚥下困難感が完全に消失したT群と不完全ないし無効のU群に分け,この群間の背景因子を多変量解析にて検討した。さらに,その改善がみられた患者のうち16人に治療終了後6ヶ月間半量で維持投与し,効果の持続をみた。またそのうち5人で治療前,2週間後,6ヶ月後で24時間pHモニタリングを行った。

 その結果,対象患者の約60において嚥下困難感が完全に消失した。2群間の背景因子解析では胸やけ症状の改善のみに有意差が認められた。

また,24時間pHモニタリングではPPI長期投与についても強力な酸抑制効果により食道内pHが改善した。

 以上より,逆流性食道炎に伴う嚥下困難感に対しても,重症度などその背景に関わらずPPI治療が長期に有効であると結論した。

 本論文はこれまで耳鼻科領域の嚥下困難感に対してPPIが必ずしも有効ではないといわれていたにもかかわらず,逆流食道炎の非定型的症状である嚥下困難感に対して逆流性食道炎の背景に関係なく約6割に有効であることを示したもので,新しい治療法として確立できることを示した意義あるものと判断した。