論文内容の要旨

【目的】

大腸発癌,進展において摂取脂肪量と脂肪酸組成は重要な因子である。本研究では各種脂肪酸長期摂取による発癌,Wnt signalingへの影響を検討した。

【方法】

6週齢雄性SDラットを,azoxymethane(AOM)投与と非投与群に分け,餌の脂肪含量・種類により対照群,10%コーン油群,10%オリーブ油群,10%牛脂群,10%魚油群の5群に割り付けた。背景粘膜の増殖,Wnt signaling関連分子,細胞死について検討した。

【結果】

投与後12週ではabberant crypt foci(ACF)は,AOM投与群で有意なACF数の増加を認め,コーン油群,牛脂群にて顕著で,オリーブ油群,魚油群では低下した。44週時の腫瘍発生数も同様の結果であった。細胞死はコーン油,牛脂群で低下,オリーブ油,魚油群で増加した。BrdU取り込みはコーン油,牛脂群で増加した。通常BrdU取り込み細胞は陰窩底部に認めるが,牛脂群ではしばしば陰窩上部に認めた。コーン油,牛脂群におけるWnt/β-catenin pathway関連分子の発現増加を認めた。

【考察・結論】

ラット大腸発癌モデルでは牛脂・コーン油には促進作用があり,一因として増殖能亢進が考えられた。増殖能亢進についてはWnt signaling亢進が関与していると考えられ,摂取脂肪酸組成による大腸発癌の促進,抑制作用に影響を及ぼしていると考えられた。

 

論文審査の結果の要旨

主査 宮崎 耕治

副査 戸田 修二

副査 徳永 藏

 

 大腸癌の発癌,進展には脂肪の摂取量が関与していることが知られている。本論文は各種脂肪酸の長期摂取が大腸癌の発癌に及ぼす影響および進展機序のひとつであるWnt signalingへの影響を子細に検討したものである。方法はSDラットを発癌剤azoxymethane(AOM)投与,非投与群に分け,餌の脂肪含量,種類により,対照群,10%コーン油群,10%オリーブ油群,10%牛脂群,10%魚油群の5群に割り付け,背景粘膜の増殖能,前癌病変(abberant crypt foci;ACF)の出現頻度,Wnt signaling関連分子の発現,アポトーシスの変化について解析した。

その結果,投与後12週ではAOM投与群で有意なACF数の増加を認め,コーン油群,牛脂群で顕著であったが,オリーブ油群,魚油群では低下した。44週時の腫瘍発生数も同様の結果であり,細胞死はコーン油群,牛脂群で低下し,オリーブ油群,魚油群で増加した。BrdU取り込みはコーン油群,牛脂群で増加した。また,通常BrdU取り込みが陰窩底部に認めるのに比し,牛脂群では陰窩上部に認められた。また,コーン油群,牛脂群ではWnt/β-catenin pathway関連分子の発現増加を認めた。

以上の結果は,ラット大腸癌発癌モデルにおいて,コーン油,牛脂にはその促進作用があり,Wnt signaling亢進を介した増殖能亢進機序が推定され,オリーブ油や魚油には,逆にこれを抑制する作用があると考えられた。このことは,大腸癌の発癌とその予防に摂取脂肪酸の種類が大きく影響することを示したもので,食事による大腸癌予防の可能性を示唆しており,博士(医学)学位論文として大変意義あるものと判断した。