論文の内容の要旨

【目的】

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,その発症に肥満やインスリン抵抗性,内臓脂肪の蓄積が関連しているが,肝の脂肪沈着の程度との関係は明らかにされていない。NAFLDの肝脂肪沈着と内臓脂肪蓄積の関係,インスリン抵抗性を含む血液生化学検査との関係を解析する。

【方法】

対象は腹部エコーで脂肪肝と診断された129名(内,女性63名)。ウイルス性,アルコール性,自己免疫性肝疾患は除外した。腹部エコーで脂肪肝の程度を軽度・中等度・高度の3段階に区分,腹部CT検査で肝脂肪沈着の程度を肝・脾のCT値比(L/S比)で,また臍部断面から内臓脂肪面積を算出した。
【結果】

脂肪肝の程度と内臓脂肪面積およびウエスト周囲径は正の相関を示し,内臓脂肪面積とL/S比は負の相関を示した。Body mass index((体重kg/(身長m)2 25未満の非肥満者においても同様の結果であった。また脂肪肝の程度は血清アミノトランスフェラーゼ,インスリン抵抗性と正の相関を示した。

【考察】

内臓脂肪は多くのアディポカインを分泌する。内臓脂肪過多の場合はそれらアディポカインにより糖尿病や高脂血症など多彩な代謝障害を引き起こす。内臓脂肪蓄積は経門脈的に肝にアディポカインが流入し,肝の脂肪沈着に影響を及ぼしている可能性がある。

【結論】

NAFLDにおける肝脂肪沈着の程度は内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性と相関する。

 

論文審査の結果の要旨

主査 長澤 浩平

副査 宮崎 耕治

副査 戸田 修二

 

本論文は,非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の脂肪沈着の程度と内臓脂肪蓄積,肝・脾のCT値比(L/S比),インスリン抵抗性,及び血液生化学検査との関連を明らかにしたものである。

腹部エコーにてNAFLDと診断された129例を対象とし,脂肪肝の程度を軽度,中等度,及び高度の3段階に区分した上で比較検討を行なった。その結果,脂肪肝の程度はCTから算出された内臓脂肪面積,及びウエスト周囲径と正の相関を示す一方,L/S比とは負の相関を示した。このような関連はBody mass index25以下の非肥満者においても同様であった。また,脂肪肝の程度は血清トランスアミナーゼの値,そしてインスリン抵抗性とも正の相関があることを証明することができた。これらの成績は,NAFLDが脂質代謝,及び糖代謝異常をよく反映し,メタボリックシンドロームとも密接な関係があることを示している。さらに著者らは,内臓脂肪から分泌されるアディポカインがNAFLDの進展に関与することを考察として述べている。

以上の成績は,従来から推定されながらエビデンスに乏しかった,NAFLDにおける脂肪沈着が内臓肥満やインスリン抵抗性など脂質,糖代謝障害と密接に関連することを明確に示している。また,侵襲の少ない腹部エコーを行うことにより,これらの代謝障害やメタボリックシンドロームの程度をかなりの程度推定できることを示しており,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。