論文内容の要旨

【目的】

癌治療の方法の1つとして,癌の増殖に伴って発達する新生血管を障害して栄養や酸素供給を断ち,癌の増殖や遠隔転移を阻止する方法が近年注目を集めている。本研究は,血管内皮細胞に多数発現される因子を免疫染組織学的に検討し,新生血管に特異的に発現する標的分子を同定することにある。

【方法】

病理にファイルされている大腸腺腫や癌組織のパラフィン包埋ブロックから,大腸の正常組織,腺腫(31例),腺腫内癌(11例),癌(34例),リンパ節転移巣から直径2oの円柱ブロックをくり抜き,新しいブロックへ再包埋して組織マイクロアレイを作成し,連続切片を作成して抗原賦活を行った後に免疫染色した。マイクロアレイ法では4050症例を同一条件下で比較検討することが可能である。用いた抗体はCD105CD31CD44VEGF,Flt-1Flk-1TGF-βT,TGF-βUの8種類で免疫蛍光や酵素抗体法を用いた。

【結果および考察】

CD31は正常粘膜から腺腫,癌に至る全ての毛細血管や大小の血管内皮細胞に良く発現し,互いに差はなかった。一方,CD105は癌病巣内の新生血管や癌細胞の80%に染まったが,正常粘膜血管には殆ど発現されず,正常粘膜と癌部は勿論,腺腫,腺腫内癌部の新生血管と比較しても発現に差が見られた。Flt-1Flk-1TGF-βT,TGF-βU,CD44は強く癌細胞に発現していたが,腺腫や癌部の血管内皮細胞には発現されていなかった。VEGFは腺腫,腺腫内癌,癌部の約30%の血管に発現されていた。

以上の結果は,大腸の腺腫や癌病巣部の血管は多様な分子を発現するが,中でも新生毛細血管はCD105を高頻度に特異的に発現することが分かった。このことは癌治療法の1つとしての抗血管新生治療法の標的分子となり得ることが考えられる。

【結論】

大腸癌に伴う新生血管はCD105を特異的に発現し,抗血管新生治療法の標的分子となり得る。

 

論文審査の結果の要旨

主査 戸田 修二

副査 藤本 一眞

副査 宮崎 耕治

 

 癌組織の成長,進展,転移の過程において,癌の間質成分である血管と血管新生は重要な規定因子である。本論文は,大腸の正常,腺腫,腺腫内癌,癌組織の血管における種々の血管内皮細胞マーカーの発現について,検討し,癌組織における発現特性とその意義について述べている。

 これによると,CD31は,正常粘膜から癌にいたる全ての毛細血管と大小の血管の内皮細胞に発現されていた。CD105endoglin)は,癌組織内の新生血管や癌細胞の80%に発現するが,正常組織ではほとんど発現できず,腺腫や腺腫内癌組織の新生血管の発現と比較しても優位に発現の亢進が見られた。Flt-1Flk-1TGF-βT,TGF-βRIICD44は,癌細胞に強く発現したが,腺腫や癌組織の血管内皮細胞では発現が見られなかった。VEGFは,腺腫,腺腫内癌,癌組織の約30%の血管に発現された。

 以上の成績は,CD105は,大腸癌組織の新生血管に特異的かつ,高頻度に発現することを示唆している。この結果は,CD105が,大腸癌の治療法の一つとしての抗血管新生療法の標的分子となりうることを示したものであり,意義あるものと考えられる。

 よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。