論文の内容の要旨

【目 的】

マウスのMurr1U2af1-rs1 遺伝子のゲノム刷り込み機構解明のため,そのマウス周辺領域とヒトの相同領域に存在する遺伝子のゲノム刷り込みとCp island(CGI)のメチル化状態を解析した。

【方 法】

父由来,母由来のアリルの区別は両アリル間での塩基配列多型を利用した。

(1)ゲノム刷り込み解析;RT-PCR産物の塩基配列解析またはRFLP解析により発現するmRNAの親由来を同定した。

(2)CGIのメチル化解析;成体組織のゲノムDNAをCOBRA法により解析。

(3)マウスU2af1-rs1 遺伝子のDMR;精子,卵子,生体組織のゲノムDNAをバイサルファイト-塩基配列決定法により解析。

【結 果】

(1)ヒトのMURR1遺伝子のイントロンにはU2af1-rs1の相同遺伝子は存在せず,周辺の3つの遺伝子を含めてゲノム刷り込みを受けていない。

(2)マウスMurr1遺伝子周辺の3つの遺伝子もゲノム刷り込みを受けていない。

(3)マウスとヒトの全てのCGIは,U2af1-rs1のCGIを除いて,DMRではなかった。

(4)マウスのU2af1-rs1のCGIは母性アリル特異的にメチル化されたDMRであった。

(5)そのCGIの一部は卵子でも完全にメチル化されている。

【結 論】

(1)マウスMurr1U2af1-rs1遺伝子のゲノム刷り込みはヒトとマウスの分岐後に獲得されたものである。

(2)U2af1-rs1遺伝子のDMRがImprinting Control Regionである可能性が示された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 出原 賢治

副査 吉田 裕樹

副査 池田 義孝

 

本論文は,マウスのMurr1遺伝子とヒトのMURR1遺伝子のインプリンティングとCpG アイランドのメチル化を比較して,マウスのMurr1遺伝子におけるインプリンティング調節の候補領域を明らかにしたものである。

マウスのMurr1遺伝子はおとなの脳で母親由来の対立遺伝子が優位に発現しており,第1イントロンに別のU2af1-rs1という父親由来の対立遺伝子が優位に発現している遺伝子が存在している。しかし,ヒトのMURR1遺伝子はU2af1-rs1遺伝子の相同遺伝子を含んでおらず,おとなの脳においても両方の対立遺伝子が発現している。このことから,マウスのMurr1遺伝子ではU2af1-rs1遺伝子がこの部分に挿入されたことから,この部位のインプリンティングが起きたと考えられた。マウスのU2af1-rs1遺伝子領域のCpG アイランド5のみが対立遺伝子によりメチル化のされ方に違いがあり,さらにその中の領域aが卵子と精子でメチル化のされ方に違いがあることにより,この領域がU2af1-rs1遺伝子のインプリンティング調節の候補領域と考えられた。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。