論文の内容の要旨

【目 的】

冠状動脈バイパス術において内胸動脈をskeletonization(伴走静脈ならびに周囲組織から動脈を剥離)する事は,内胸動脈をpedicleにて使用する方法(内胸動脈を伴走静脈ならびに周囲組織と伴に使用)に比べ臨床的に有用である。超音波メスは内胸動脈のskeletonizationをスピーディかつ容易にするが,超音波エネルギーによる内胸動脈の内膜損傷が危惧される。本研究では超音波メスにてskeletonizationした内胸動脈内膜を走査電子顕微鏡にて形態学的に検討した。

【方 法】 

冠状動脈バイパス術10症例を対象とした。超音波メスにて内胸動脈をskeletonizationした症例9例(検討群)。超音波メスを使用せず鋏にてskeletonizationした症例1例(コントロール)。Skeletonizationした内胸動脈末梢部を切離,洗浄,固定し,走査電子顕微鏡にて内膜を観察,比較検討した。

【結 果】

コントロール標本にて内膜損傷を全く認めなかった。超音波メスにてskeletonizationした内胸動脈においてもコントロール標本と同様に内膜損傷は認められず,内膜が良好に温存されていることが確認できた。

【結 論】 

超音波メスによる内胸動脈のskeletonization法は内膜損傷を惹起せず,推奨される方法である。

 

論文審査の結果の要旨

主査 野出 孝一

副査 徳永  藏

副査 戸田 修二

 

本論文は,冠状動脈バイパス術における超音波メスによる内胸動脈のskeletonization(伴走静脈ならびに周囲組織から動脈を剥離)の内膜損傷に対する影響を走査電子顕微鏡で,形態学的に検討した研究である。

冠状動脈バイパス術10症例を対象とし,超音波メスにて内胸動脈をskeletonizationした症例9例(検討群)と超音波メスを使用せず鋏にてskeletonizationした症例1例(コントロール)について,内胸動脈末梢部を切離,洗浄,固定し,走査電子顕微鏡にて内膜を観察,形態学的に比較検討した結果,コントロール標本においては内膜損傷を全く認めなかった。また,検討群においても同様の結果を得ることを確認した。

内胸動脈は遠隔期開存率に優れ,信頼できるグラフトであるが,採取時の内膜損傷はグラフトの急性閉塞や遠隔期での動脈硬化を惹起しグラフト閉塞に至るため,術中の内膜温存が遠隔成績をも左右する。 

冠状動脈バイパス術においては,内胸動脈をpedicleにて使用する方法(内胸動脈を伴走静脈ならびに周囲組織と伴に使用)に比べskeletonizationする方が臨床的に有用であるとされ,本論文によって,広く行われている超音波メスによる内胸動脈のskeletonization法の安全性が示されたことは,臨床的に意義のあるものである。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。