論文の内容の要旨
【目 的】
B細胞においてIL-4が誘導する遺伝子を同定し,B細胞におけるIL-4の新規生物活性を明らかにすることを試みた。
【方 法】
(1)DNAマイクロアレイを用いてヒトバーキットリンパ腫細胞株DND39におけるIL-4による誘導遺伝子を同定した。(2)ヒトならびにマウスB細胞,DND39細胞におけるaryl hydrocarbon receptor(AhR)遺伝子発現と,その発現におけるSTAT6依存性を解析した。(3)AhRの標的遺伝子であるCYP1A1の発現を解析した。(4)IL-4刺激時のDND39細胞内でのAhRの局在を解析した。(5) CD23発現あるいはIgE産生におけるAhRの関与について解析した。
【結 果】
(1)マイクロアレイを用いたIL-4誘導遺伝子の中にAhR遺伝子が含まれていた。 (2)ヒトならびにマウスB細胞においてIL-4によりAhRの発現が誘導され,その発現にはSTAT6を必要とした。
(3)IL-4単独で刺激したB細胞ではCYP1A1発現の誘導とともに,AhRの核移行がみられた。AhRのリガンドである2,3,7,8-tetra-chrolodibenzo-p-dioxinはIL-4によるCYP1A1誘導を増強した。(4)CD23発現あるいはIgE産生にAhRは必要ではなかった。
【考 察】
B細胞をIL-4で刺激するとSTAT6依存性にAhR遺伝子が誘導されるとともに,AhRが活性化されて核内に移行してCYP1A1を誘導した。このことは,IL-4がB細胞においてAhR,CYP1A1を誘導し,それらを介して芳香族化合物の代謝へ関与していることを示唆していた。
論文審査の結果の要旨
主査 吉田 裕樹
主査 木本 雅夫
副査 池田 義孝
本論文では,IL-4がB細胞に及ぼす新規の効果に関して,生体異物の代謝にかかわる遺伝子の発現を解析している。
これによると,Bリンパ球細胞株DND-39細胞をIL-4およびIL-13で刺激したときに発現が誘導される遺伝子のひとつに,AHR(aryl hydrocarbon receptor)があり,これはTCDD(ダイオキシン)などと結合することにより核に移行し,代謝にかかわる遺伝子の発現を誘導する分子である。IL-4によるBリンパ細胞株におけるAHRの発現は,STAT6に依存したものであった。また,IL-4にはTCDD結合によるAHRの分解を抑制する効果,およびAHRの核内移行を促進する効果も認められた。その結果として,IL-4は,TCDDによりAHRを介して誘導される代謝酵素CYP1A1(チトクロムP450)の発現誘導を促進した。また,TCDDによるAHRの活性化は,B細胞のIgE産生や分化マーカーの発現などには影響を与えなかった。
以上のデータは,これまでB細胞の分化や機能に影響を与えるとされてきたIL-4(およびIL-13)による,生体異物の代謝にかかわる遺伝子の発現誘導という新しい役割を示したものであり,意義あるものと考えられる。よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。