論文の内容の要旨
【目 的】
中枢神経系の摂食行動関連中枢が小腸粘膜のアポトーシスにどのような影響を及ぼすかについて検討した。
【方 法】
ラットの第三脳室に4種類の試薬をそれぞれ注入し,摂食行動の亢進あるいは抑制を起こさせ,それぞれ小腸粘膜のアポトーシスに及ぼす影響を検討した。
【結 果】
chlorpheniramine maleateと2-deoxy-D-glucoseをラットの第三脳室に投与することにより摂食行動が惹起され,それに伴い小腸粘膜のアポトーシス(DNA断片化率)の減少を認めた。これに対して,leptinと1-deoxy-D-glucosamineの第三脳室投与では,摂食行為を抑制され,ラットの小腸粘膜のアポトーシス(DNA断片化率)の増加を認めた。また,迷走神経切除はラットの摂食行動や小腸のアポトーシスに影響を及ぼさなかった。
【考 察】
視床下部を中心とした中枢神経系はラットの摂食行為を調節することによって,小腸粘膜のアポトーシスを制御し,小腸の機能をコントロールする可能性が示された。
【結 論】
小腸粘膜のアポトーシスは数々の因子によって調節されていることが判明しているが,今回の実験結果から摂食行動を制御している中枢神経系の影響を受けていることが判明した。
論文審査の結果の要旨
主査 宮崎 耕治
副査 徳永 藏
副査 黒田 康夫
本論文は中枢神経系の摂食中枢が小腸粘膜のアポトーシスにどのような影響を及ぼすかを検討したものである。
ラットを用いて摂食行動の亢進あるいは抑制を誘導するそれぞれ2種類の薬剤を第三脳室に注入し,小腸粘膜のアポトーシスに及ぼす影響を検討している。chlorpheniramine maleateと2-deoxy-D-glucoseの注入ではラットの摂食行動が惹起され,それに伴い小腸粘膜のアポトーシスが減少した。一方,leptinと1-deoxy-D-glucosamineの投与では摂食行動が抑制され,小腸粘膜のアポトーシスが増加した。しかし,迷走神経切断はこれらに影響しなかった。
この結果より視床下部を中心とした中枢神経系が迷走神経を介さずに摂食行動を調節することによって小腸粘膜のアポトーシスを制御し,小腸機能をコントロールしている可能性があると考察している。以上はこれまで判明している数々の小腸粘膜アポトーシス調節因子に加えて中枢神経系もこれに関与していることを明らかにした点で意義のある論文と考えられる。
よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値のあるものと認めた。