論文の内容の要旨

【目 的】

Endoglin(CD105) は膜糖タンパクで,その受容体であるTGFβ,TGFβR-2と複合体を形成し主に新生血管の内皮細胞表面に発現されるが,最近動脈硬化との関連も指摘されている。本論文の目的はヒト大動脈の非病変部(Non-atherosclerotic aorta, Non-As)と動脈硬化部(Atherosclerotic lesion, As)におけるendoglinおよびそのTGFβ複合体の発現プロファイルを調べ,動脈硬化の発生・進展におけるendoglinの役割を比較検討することである。

【方 法】

動脈硬化病変はAHA分類に従って6病変に分類した。36例の病理解剖症例から動脈硬化 26病巣と非病変部26組織切片に対して,酵素抗体法を用いてCD105, TGFβ,TGFβR-2, CD68の免疫染色を行い,動脈硬化の程度と染色態度を比較検討した。

【結 果】

Endoglinの発現は動脈硬化部の平滑筋細胞,マクロファージ由来の泡沫細胞および内皮細胞で認められた。TGFβ1及びTGFβR-2の発現は内膜の基質,平滑筋細胞,泡沫細胞および内皮細胞で亢進していた。特に進行型動脈硬化部で発現が強く認められた。動脈硬化部でのendoglinTGFβ1TGFβR-2の発現はそれぞれ非病変部と比べ有意に高かった (p<0.0001)。またendoglinTGFβ1TGFβR-2の共発現の割合は動脈硬化部で有意に高かった (p<0.001)

【結 論】

Endoglin 及びそのレセプター複合体は動脈硬化病巣で発現する。またそれらは動脈硬化の発生(atherogenesis)および進展(advancement)に関与することが示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 野出 孝一

副査 伊藤  翼

副査 戸田 修二

 

本研究は心筋梗塞の発症の原因とされている不安定プラークの形成と破綻に関する血管新生因子の研究である。膜糖タンパクEndoglin(CD105)はその受容体であるTGFβ,TGFβR-2と複合体を形成し主に新生血管の内皮細胞表面に発現されるが,最近動脈硬化との関連も指摘されている。本論文は,ヒト大動脈の非病変部(Non-atherosclerotic aorta, Non-As)と動脈硬化部(Atherosclerotic lesion, As)におけるendoglinおよびそのTGFβ複合体の発現プロファイルを調べ,動脈硬化の発生・進展におけるendoglinの役割を比較検討している。

動脈硬化病変をAHA分類に従って6病変に分類し,36例の病理解剖症例から腹部大動脈の動脈硬化26病巣と非病変部26組織切片に対して,酵素抗体法を用いてCD105TGFβ,TGFβR-2CD68の免疫染色を行い,動脈硬化の程度と染色態度を比較検討した結果,Endoglinの発現は動脈硬化部の平滑筋細胞,マクロファージ由来の泡沫細胞および内皮細胞で認められた。TGFβ及びTGFβR-2の発現は内膜の基質,平滑筋細胞,泡沫細胞および内皮細胞で亢進していた。EndoglinTGFβ1TGFβR-2の発現はそれぞれ非病変部よりも動脈硬化部位で有意に高く(p<0.0001),共発現の割合も動脈硬化部の血管内皮細胞で有意に高かった(p<0.001)

以上の成績はEndoglinおよびそのレセプター複合体が動脈硬化病巣で発現すること,またそれらが動脈硬化の発生および進展に関与することを示しており,意義あるものと考える。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。