論文の内容の要旨

【目 的】

Polymerase chain reaction (PCR)/Southern blottingを用いて,小児脳腫瘍における腫瘍発生とJCウイルスとの関連を見出すことを目的とした。

【方 法】

62例の小児脳腫瘍手術症例(32例の髄芽腫,18例の上衣腫,5例の脈絡叢乳頭腫,7例の毛様細胞性星状細胞腫)を解析の対象とした。パラフィン切片よりDNAを抽出し,ウイルスの4つの各ドメインを表すプライマー,および各々のプローブを用い,Southern blotting法にて腫瘍におけるウイルスDNAの有無を調査した。さらにウイルスのT抗原,ウイルス蛋白発現を免疫組織学的検査にて調べた。

【結 果】

髄芽腫や毛様細胞性星状細胞腫におけるウイルスDNAは検出されなかったが,18例中5例の上衣腫,5例中1例の脈絡叢乳頭腫においてJCウイルスDNAが検出された。またJCウイルスDNA陽性の脈絡叢乳頭腫の1例のみウイルスのT抗原の蛋白発現が確認された。

【考 察・結 論】

小児脳腫瘍において,上衣腫,および脈絡叢乳頭腫の腫瘍発現にJCウイルスが関与していることが示唆された。また従来関与が報告されていた髄芽腫や毛様細胞性星状細胞腫においてJCウイルスDNAが検出されず,その腫瘍発現への関与は否定的であった。

 

論文審査の結果の要旨

主査 黒田 康夫

副査 宮本 比呂志

副査 濱崎 雄平

 

本論文はpolymerase chain reaction (PCR)/Southern blottingを用いて,小児脳腫瘍発生とJCウイルスの関連を見出すことを目的にしている。

62例の小児脳腫瘍手術症例(髄芽腫32例,上衣腫18例,脈絡叢乳頭腫5例,毛様細胞性星状細胞腫7例)を対象とし,パラフィン切片よりDNAを抽出し,JCウイルスの4つのドメインのプライマーと各々のプローブを用いてSouthern blotting法にてウイルスDNAの有無を検索し,さらにウイルスのT抗原とウイルス蛋白の発現を免疫組織学的法にて調べている。

 それによると,従来JCウイルスの関与が指摘されている髄芽腫と毛様細胞性星状細胞腫ではJCウイルスDNAは検出されなかったが,上衣腫18例中5,脈絡叢乳頭腫5例中1例でJCウイルスDNAを検出している。さらにJCウイルスDNA陽性の脈絡叢乳頭腫においてJCウイルスT抗原の蛋白発現を確認している。

 以上の成績は,小児脳腫瘍の一部において,とくに上衣腫および脈絡叢乳頭腫において,脳腫瘍の発現にJCウイルスが関与している可能性を示唆しており,ウイルスと脳腫瘍の関連性について新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。

 よって,本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。