論文内容の要旨

【目 的】

ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるFR901228を用いて破骨細胞分化阻害のメカニズムの検討及びラットアジュバント関節炎を用いた骨破壊に対する影響について検討を行った。

【方 法】

ラット骨髄細胞及びマウスマクロファージ細胞株RAW264を用いて破骨細胞の分化を誘導し,細胞からRNA及び細胞質,核蛋白を調整しRT-PCR及びWestern法を用いて破骨細胞分化マーカー,細胞内シグナル因子の発現について検討した。

ewis ratにCFAを免疫し,関節炎発症後FR901228を週2回静脈注射して経時的に観察し,誘導後3週間で潅流固定を行い足部のレントゲン撮影,HE,TRAP染色及び免疫染色を行った。

【結 果】

FR901228はRANKLによって誘導されるMAPKのリン酸化やNF-кB p65の核移行は阻害しなかったがNF-ATc1の核移行を阻害した。FR901228によりHDAC阻害剤の標的遺伝子であるp21やMAPK脱リン酸化酵素のmRNAの発現は影響しなかったが,IFN-βのmRNAの発現が強く誘導された。またc-Fos及びSOCS-3のmRNA発現は減少した。さらにIFN-βの中和抗体を添加したところ,FR901228による破骨細胞の分化阻害活性が阻害された。

FR901228投与により関節炎は抑制されなかったが,破骨細胞の形成及び骨破壊が阻害された。FR901228を投与したラットの滑膜細胞においてIFN-β陽性細胞が増加していた。

【考 察:結 論】

HDAC阻害剤は破骨細胞分化シグナルであるNF-ATc1の活性を抑制するだけでなく,破骨細胞分化を阻害するIFN-βの発現を誘導することにより破骨細胞分化及び骨破壊を阻害することが考えられた。破骨細胞分化を阻害するHDAC活性が破骨細胞分化において重要であることが示された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 吉田 裕樹

副査 出原 賢治

副査 徳永  藏

 

本論文では,抗がん剤としても使われるヒストンデアセチレース阻害剤(HDI)が破骨細胞分化に与える影響について解析している。

これによると,HDIのひとつである,FR901228(ペプチド)は,骨細胞分化に重要な転写因子NF-ATc1の活性化を阻害するのみならず,IFN−β産生を誘導することによりは骨細胞分化を抑制した。アジュバントによりラットに誘導される関節炎においては,FR901228は,予防的投与,治療的投与両方にて関節炎の発症を抑制した。これには,関節炎において関節内に産生されるIFN−βの抑制が関与しているものと考えられた。これらより,FR901228を含むHDIは,関節炎や癌の骨転移において骨破壊を抑制する治療薬としての可能性が明らかになった。

以上の結果は,骨細胞の分化の新しい分子機構とその阻害薬の作用機序を明らかにし,新しい治療薬の可能性を示したものであり,意義あるものと考えられる。

よって本論文は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。