論文の内容の要旨

【目 的】

Microarray-based comparative genomic hybridization(array-CGH)を用い膠芽腫のゲノム異常と臨床像との関連を検討し、予後規定因子を見出すことを目的とした。

【方 法】

病理組織学的に膠芽腫と診断された19症例を対象とした。腫瘍凍結切片よりDNAを抽出し、array-CGHを用いてゲノム異常を検出した。各症例のゲノム異常と臨床像について統計学的に検討した。

【結 果】

従来metaphase-CGHにて報告されていなかった新規ゲノム異常が検出された。長期生存群により多くの遺伝子コピー数の異常を認めた。生体情報から非線形性情報を抽出できるdetrended fluctuation analysis法による長スケール域におけるフラクタルスケーリング指数の高値が予後良好因子であった。

【考 察】

予後良好群においては、個々の遺伝子レベルでは多彩な異常が蓄積しているにもかかわらず、フラクタルスケーリング指数からみれば全体的なゲノム構造変化のダイナミクス制御機構はまだ保たれていることが推測される。

【結 論】

Array-CGHは、ゲノムコピー数の異常を定量的に検出することができる有用な手法であると考えられる。非線形解析法を初めてゲノム異常解析に応用し、生存期間と相関する因子を指摘することができた。

 

論文審査の結果の要旨

主査  黒田 康夫

副査  徳永  藏

副査  吉田 裕樹

 

本論文は,microarray-based comparative genomic hybridization(array-CGH)を用いて膠芽腫のゲノム異常と臨床像の関連を検討することにより予後規定因子を見出すことを目的にしている。

対象は病理組織学的に膠芽腫と診断された19症例である。腫瘍凍結切片よりDNAを抽出し,array-CGHを用いてゲノム異常を検出している。この方法により従来のmetaphase-CGHでは報告されていない新規のゲノム異常を見出している。このゲノム異常と臨床像を比較検討した結果,長期生存患者群により多くの遺伝子コピー数の異常があることが判明した。さらに生体情報から非線形性情報を抽出できるdetrended fluctuation analysis法で長スケール域におけるフラクタルスケーリング指数の高値が予後良好因子であることを見出している。

 以上の成績は,予後良好群の膠芽腫においては個々の遺伝子レベルでは多彩な異常が蓄積しているにもかかわらず,フラクタルスケーリング指数からみれば全体的なゲノム構造変化のダイナミックス制御機構は保たれていることを示唆している。

よって本論文は膠芽腫においてゲノム異常と予後規定因子の関連について新しい知見を見出しており,意義あるものと考えられ,博士(医学)の学位論文として価値あるものと考えた。