論文の内容の要旨
【目 的】
拡張型心筋症(DCM)に対するβブロッカー療法が心機能を改善させることはすでに確立された治療法であるが,すべての患者に安全に導入維持できるかどうかは未だ不明である。
【方 法】
βブロッカー療法導入の可否を予測するために、β遮断薬(メトプロロールまたはカルベジロール)を用いた38人のDCM患者を治療継続群と非継続群に分け,治療前の臨床データを用いて比較検討した。
【結 果】
13人の非継続群は,25人の継続群に比べ,収縮期血圧(SBP)が有意に低く(96±10対114±12 mmHg(p<0.001))、血清ナトリウム濃度(Na)は有意に低かった。(137±3対139±3 mEq/L p<0.05)。またカルベジロール投与を受けた19人の患者において、5人の非継続群は、13人の継続群よりも脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(471±185対105±72 pg/ml(p<0.01))が有意に高いレベルを示した。
【考 察】
判別関数により,以下の公式がβブロッカー療法に対する継続維持を予測することを示した。
h=0.004×(SBP)-0.002×(BNP
level)+0.667(R2=0.67(p<0.001))。
この公式を使用し、治療継続群でh≧0.5の確率は、94.1%と高率であった。
【結 論】
我々は、h≧0.5がDCMに対するβブロッカー療法の継続維持のための適切な予測因子になりうると結論する。
論文審査の結果の要旨
主査 伊藤 翼
副査 頴原 嗣尚
副査 藤戸 博
拡張型心筋症(DCM)に対するβブロッカー療法が心機能を改善させることはすでに確立された治療法であるが,すべての患者に安全に導入維持できるかどうかは未だ不明である。βブロッカー療法導入の可否を予測するために,β遮断薬(メトプロロールまたはカルベジロール)を用いた38人のDCM 患者を治療継続群と非継続群に分け,治療前の臨床データを用いて比較検討した。
非継続群の13人は,継続群の25人に比べ,収縮期圧(SBP)が有意に低く(96±10対114±12 mmHg(p<0.001)),血清ナトリウム(Na)は有意に低かった(137±3対139±3 mEq/L(p<0.05))。またカルベジロール投与を受けた19人の患者において,5人の非継続群は,14人の継続群よりもBNPが有意に高いレベルを示した(471±185対105±72 pg/ml(p<0.01))。
判別関数により,以下の公式がβブロッカー療法に対する継続維持を予測することを示した。
h=0.004×(SBP)-0.002×(BNP)+0.667(R2=0.67,(p<0.001)。
この公式を使用し,治療継続群でh≧0.5の確率は,94.1%と高率であった。以上より,h≧0.5がDCMに対するβブロッカー療法の継続維持のための適切な予測因子になりうると結論した。
以上の成績はDCMに対するβブロッカー療法に関して新しい知見を加えたものであり,意義あるものと考えられる。
よって本論文は,医学博士の学位論文として価値あるものと認めた。