論文の内容の要旨
【目 的】
cDNA microarrayを用いて大腸癌における新規予後因子となりうる遺伝子を検索する。
【方 法】
進行大腸癌の6例を対象に癌部と非癌部とにおける種々の遺伝子の発現の違いをcDNA microarray (Clontech社, Atlas Glass
Human 1.0)を用いて解析した。また、癌部で特に高発現が見られたJanus Kinase 3 (JAK
3)、Matrix Metalloproteinase 3 (MMP 13)、Heat Shock Protein 60 (HSP 60)、Mouse Double
Minute 2 (MDM2) に着目し、大腸癌症例44例を対象として免疫染色を行い、臨床病理学的な検討を行った。
【結 果】
6例中4例以上に癌部で2倍以上の高発現がみられた遺伝子は32個であり、逆に癌部で低発現が見られた遺伝子は8個であった。上記4つの遺伝子の免疫染色では、JAK 3は主に癌細胞の細胞質と核に限局して見られ、腺癌の分化度、pT、TMN stageとに相関関係が見られた。MMP 13とHSP 60は主に癌細胞の細胞質に発現し、腺癌の分化度とpTに相関がみられた。MDM 2は非癌部よりも癌部の癌細胞の核に発現が見られたが、臨床病理学的因子と相関はなかった。多変量解析においてJAK 3は独立予後不良因子であった。
【考 察】
これらの結果よりJAK
3は大腸癌において重要な予後を決定免疫染色マーカーになりうると推測された。
【結 論】
cDNA microarrayの有用性が確認された。
論文審査の結果の要旨
主査 藤本 一眞
副査 吉田 裕樹
副査 池田 義孝
本論文はcDNA microarrayを用いて大腸癌における新規予後因子となりうる遺伝子を検索し、実際の症例において予後因子となるかを検討したものである。
進行大腸癌の6例を対象に癌部と非癌部とにおける種々の遺伝子の発現の違いをcDNA microarrayを用いて解析した。6例中4例以上に癌部で2倍以上の高発現がみられた遺伝子は32個であり、逆に癌部で低発現が見られた遺伝子は8個であった。癌部で特に高発現が見られたJanus Kinase 3 (JAK 3)、Matrix
Metalloproteinase 3 (MMP 13)、Heat Shock Protein 60 (HSP
60)、Mouse Mouble Minute 2 (MDM2) に着目し、大腸癌症例44例を対象として免疫染色を行い、臨床病理学的な検討を行った。JAK 3は主に癌細胞の細胞質と核に限局して見られ、腺癌の分化度、pT、TMN stageとに相関関係が見られた。MMP 13とHSP 60は主に癌細胞の細胞質に発現し、腺癌の分化度とpTに相関がみられた。MDM 2は非癌部よりも癌部の癌細胞の核に発現が見られたが、臨床病理学的因子と相関はなかった。多変量解析においてJAK 3は独立予後不良因子であった。
以上の成績は、cDNA microarray で癌部に高発現を認めたJAK 3が大腸癌において重要な予後決定免疫染色マーカーになりうる可能性を示すものであった。
よって本論文は、博士(医学)の学位論文として価値のあるものと認めた。