論文の内容の要旨

【目的】

ピロフォスファターゼ(PPase)は蛋白,DNA及びRNA合成過程で発生するピロリン酸を分解する酵素であり,生命維持に必須な生体分子である。横井らは新規ヒトPPaseとしてhuman phospholysine phosphohistidine inorganic pyrophophate phosphatase(LHPPase)を報告した(J.Biochem.133607-6142003)。我々はLHPPase抗体を作成し,甲状腺疾患における本酵素の発現とその機能を初めて検討した。

【方法】

バセドウ病,慢性甲状腺炎,濾胞腺腫,腺腫様甲状腺腫,機能性結節,乳頭癌,正常甲状腺組織及び培養濾胞細胞を用いて,LHPPaseの局在と発現を免疫組織化学とWestern blotで解析した。

【結果】

LHPPaseの発現は濾胞細胞にのみ限局し,血管内皮細胞や線維芽細胞には見られなかった。LHPPaseは濾胞細胞の細胞質と核に発現したが,核内発現は正常甲状腺組織と比較して甲状腺機能亢進症(バセドウ病,機能性結節)では有意に高く,腫瘍では低下していた。培養細胞では核内発現はみられなかった。

【結論】

LHPPaseの核内発現が,甲状腺機能亢進症で促進されていることにより,LHPPaseは濾胞細胞の甲状腺ホルモン産生能と密接に関与していることが示唆された。

 

論文審査の結果の要旨

主査 徳永 藏

副査 吉田 裕樹

副査 長澤 浩平

 

本論文は蛋白,DNAおよびRNA合成過程で発生するピロリン酸を分解するピロフォスファターゼ(PPase)の一種で,共著者の1人がクローニングした新しいphospholysine phosphohistidine inorganic pyrophophate phosphatase(LHPPase)の発現と機能を,種々の甲状腺疾患の外科切除組織や甲状腺の培養濾胞細胞を用いて検討している。

 これによると,LHPPase特異抗体を用いて甲状腺組織の免疫感染を行うとLHPPaseの発現は甲状腺濾胞細胞の核と細胞質に見られ,血管内皮細胞や線維芽細胞には見られなかった。正常甲状腺組織と比較して甲状腺機能亢進症(バセドウ病,機能性結節)では有意に高く,腫瘍(濾胞腺腫や乳頭癌)では低下していた。培養濾胞細胞を用いてLHPPase発現を見ると細胞質内に見られたが核内にはみられなかった。そこで培養細胞の培地にバセドウ病患者血清を添加してLHPPaseの発現を検討したが変化は見られなかった。

 以上の成績は,LHPPaseの発現は甲状腺機能亢進症で促進されていることにより,LHPPaseは濾胞細胞の甲状腺ホルモン産生能に関与していることを示唆したものであり,意義あるものと考えられる。

 よって本論分は,博士(医学)の学位論文として価値あるものと認めた。